医療財政改革の健康保険法改正、国民投票で可決
(スイス)
ジュネーブ発
2024年12月02日
スイスで国民投票が11月24日に実施された。「高速道路の拡張計画」「転貸条件の厳格化(賃貸法)」「賃貸契約解約条件の緩和(賃貸法)」「連邦健康保険法(LAMal)の改正(医療費負担の標準化)」に関する4つのレファレンダム(注1)の投票が行われ、それぞれ反対52.70%(投票率45.05%)、反対51.58%(同44.89%)、反対53.83%(同44.90%)と3件が否決、健康保険法改正に関する1件のみが賛成53.31%(同44.87%)で可決された。〔連邦参事会(内閣)サイト、フランス語〕。
否決された「高速道路の拡張計画」は、1990年以降に国道の交通量が倍増し、州道や市町村道の渋滞、不要な迂回交通が増加した状況を改善するため、是正措置として2023年に連邦議会を通過した6つの高速道路の拡張計画で、約49億スイス・フラン(約8,330億円、CHF、1CHF=約170円)を充てることになっていた。緑の党を中心とする反対派は、高速道路の拡張は環境問題を悪化させ、交通量を増加させると主張し、代わりに公共交通機関への投資と既存の道路の改修を訴えていた。
否決された2つ目と3つ目はともに、賃貸法に係る論点だ。賃貸法の改正では、転貸による悪用を防ぐため、転貸が2年以上続く場合、または法律に明記されていなくても転貸を拒否できる正当な理由がある場合、貸し主は転貸を拒否できるとした〔「転貸条件の厳格化(賃貸法)」〕。また、家主が自身や近親者により早急に物件を使用する必要が生じた場合の賃貸契約解除について、その早急性を証明できる条件を緩和していた〔「賃貸契約解約条件の緩和(賃貸法)」〕。これらはともに、家主が有利になる改正内容だとして、反対派が批判していた。
唯一可決された「連邦健康保険法(LAMal)の改正(医療費負担の標準化)」は、スイスの全居住者に加入が義務付けられている基礎健康保険の保険料が近年急上昇している事態を改善するための改正だ。スイスでは現在、外来診療、入院治療、または在宅医療によって医療費の財源が異なり、外来診療では100%保険会社が負担する一方、入院治療では州が最低55%を負担し、保険会社の負担は最大45%にとどまるため誤ったインセンティブを生み、外来診療で済む場合でも、入院治療が行われている場合があるとされる。法改正によってこれを標準化し、外来・入院・在宅医療のいずれでも州が最低26.9%、保険会社が最大73.1%(注2)を拠出することで、入院治療から外来診療への移行を促し、州も外来診療費を負担することで保険料の上昇を抑えることができるとされる。
(注1)議会が可決した法律の是非について、国民が投票するもの。
(注2)2016年から2019年までのデータに基づいて算出。
(深谷薫、パブロ・ダス)
(スイス)
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