欧州委、復興基金の執行は4割強にとどまるも、実施状況は改善

(EU)

ブリュッセル発

2024年10月22日

欧州委員会は10月10日、復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)の実施状況に関する年次報告書を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。RRFは、新型コロナウイルス危機への経済対策である復興基金の中核政策で、予算総額は補助金と融資を合わせ6,480億ユーロ(2023年基準)にのぼる。

報告書によると、2024年8月末時点での加盟国への支払い総額は2,654億ユーロとRRF予算の4割強にとどまる。一方、達成時期が2024年第1四半期までに設定されている成果目標については約85%が達成済みとして、実施状況は改善したとしている。今後12カ月間の成果目標の達成見通しも明るいとしており、加盟国への支払い総額は2024年末までに3,000億ユーロに達する見込みだとした。

RRF予算の加盟国への支払いは、加盟国が改革や投資を実行し、成果目標を達成した上で、欧州委に支払いを申請。欧州委が審査の上、達成していると判断した場合に実施される。成果目標は、加盟国が策定し、EU理事会(閣僚理事会)の承認を受けた復興計画に規定されている。

RRFは復興基金という臨時特別予算の一部であることから、成果目標の達成期限は2026年8月末に、加盟国への支払い期限は2026年末に設定されている。期限を過ぎた場合、加盟国はRRF予算の支払いを受けることができない。欧州委は、実施の遅れや課題が目立つ事例も一部散見されるとして、期限内に全ての成果目標を達成できるよう、加盟国に対し取り組みのさらなる強化を求めた。

RRF同様の予算執行モデルのEU通常予算への適用を検討

報告書は、成果目標の達成に基づき予算を支払うRRFの予算執行モデルに関し、2024年2月のRRF中間評価を踏まえ、加盟国による構造改革実施の動機づけとして効果的に機能していると、その有用性を強調している。

背景には、成果型予算執行モデルをEU通常予算に適用させたい欧州委の意向があるとみられる。現地報道によれば、欧州委は、2025年に発表予定の2028~2034年の中期予算計画(多年度財政枠組み:MMF)案において、EU通常予算のそれぞれ約3割を占める、共通農業政策と域内の経済格差是正策である結束政策(2020年9月23日付地域・分析レポート)への適用も検討している。成果型予算執行モデルでは欧州委の権限が大幅に強まることから、加盟国の大きな反発が予想される。MMFは全会一致を必要としており、交渉は難航するとみられる。

(吉沼啓介)

(EU)

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