米エネルギー調査会社が電力需給の将来予測を発表、送電網の整備が課題に

(米国)

ニューヨーク発

2024年10月21日

エネルギー関連の米国調査会社ウッド・マッケンジーは10月17日、今後の米国における電力需要の増加と電力網の整備の遅れなど供給上の課題を分析したレポートを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

このレポートでは、今後の電力需要の増加要因として、(1)データセンター需要の増大、(2)CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)やインフレ削減法(IRA)の支援を受けた半導体、バッテリー、太陽光パネル関連の大規模な製造施設の稼働、(3)各種部門における電化の促進の3点を挙げている。データセンター需要では、2030年まで毎年10~20%程度の伸びを続け、10%ずつ増加する場合には13ギガワット(GW)、20%ずつ増加する場合には35GWの追加的な電力需要が発生する。大規模な製造施設の稼働に伴う需要では、バッテリー製造施設で3,500メガワット(MW)、太陽光パネルの製造施設で7,000MW(注1)、半導体製造施設で3,000~5,000MWの追加的な電力需要が発生し、総計で1万5,000MWにのぼると予想。各種部門における電化の推進に関しては、特に北東部および西部における電気自動車(EV)の導入や暖房の電化による影響が大きく、特に現在全電力需要の中で1%未満に過ぎないEV向け電力需要のシェアが、2030年までにカリフォルニア州で8%、北東部で3~4%にまで上昇する可能性があると指摘している。これらの結果、地域によって差異はありつつも、いずれの地域の送電機関でも2024年と比較して2029年の電力需要が4~15%増加すると予想している。

しかし、こうした需要の増大に対して、供給側には複数の課題があると指摘している。具体的には、(1)電力系統に接続される送電容量の増加ペースは年平均2%の成長にとどまっていること(注2)、(2)石炭火力発電所の廃止に伴い電力供給量そのものが減少する可能性があること、(3)大型変圧器の納入までに3~5年のリードタイムが必要となるなど、変圧器やブレーカーといった相互接続に必須となる機器の入手性に難があること、などの電力システム上の課題のほか、電力市場オークションの仕組みに関する複数の課題についても指摘している。

本レポートでは、こうした電力需給の不均衡に伴い電力価格に上昇圧力がかかると予測し、これに対処するためには送電計画・許可・建設のペースを速めることが最も重要であると指摘。また、データセンターと公益事業会社の連携強化、大口需要者に対するより透明性の高い相互接続プロセスの確立など、公益事業会社、規制当局、政策立案者による統合的なアプローチが必要になるとしている。

(注1)この数値はIRAに申請されたプロジェクト全体のうち、セルは7%分、ウエハーは25%分のみが実際に生産されることとなったという前提での推計。申請されたプロジェクトがフル稼働する場合には、約30GWの電力需要が発生すると試算。

(注2)再生可能エネルギーの発電容量自体は2030年までに29GWから40GWに増加(年間約5.5%増加)するのに対し、送電容量は年間約2%の増加にとどまる。

(加藤翔一)

(米国)

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