イスラエルとハマスの衝突により、サウジアラビア・ダンマン港の貨物取扱量が増加

(サウジアラビア)

リヤド発

2024年08月30日

イスラエルとハマスの衝突に起因するイエメンのフーシ派による紅海での船舶攻撃で、物流への影響がある(2024年5月29日記事参照)。ジェトロは、山九サウジアラビアのフォワーディングマネジャーの中村和靖氏に物流状況について聞いた(812日)。概要は次のとおり。

(問)812日現在、紅海航路の運航状況は。

(答)フーシ派の船舶攻撃による海上貿易での混乱を避けるため、欧州向けは(南アフリカ共和国の)喜望峰経由の輸送が増加している。船会社によるが、大半は紅海航路を避けているようだ。他方、中国・アジア系船舶は紅海航路を利用しており、サウジアラビアのジッダ・イスラミック港にも入港している。

(問)サウジアラビアの港湾での輸出入状況は。

(答)従来、西部州の顧客はジッダ港、もしくはキングアブドラ港で船積みを行っていたが、紅海問題の後、4割程度は東部州キング・アブドゥルアズィーズ港(ダンマン港)での船積みを余儀なくされている。リスク回避の観点からダンマン港のニーズが高まっていることで、本船コンテナの積み降ろしは通常48時間だが、今は4日以上かかる。通関はオンラインシステム申請で、通常は2日以内で申請が許可されるが、4日ほど日数を要している。また、港湾への入港は事前予約制だが、枠がいっぱいで、3日後以降でないと入港ができない状況だ。

写真 山九サウジアラビアのフォワーディングマネジャーの中村和靖氏(同社提供)

山九サウジアラビアのフォワーディングマネジャーの中村和靖氏(同社提供)

(問)物流コストの影響は。

(答)運賃の大幅な増加など、全体的にコスト増となっている。配送期間の長期化(平均1週間増加)に伴い、コンテナをすぐに引き取れないため、コンテナ保管料(輸入貨物の場合)が負担になってきている。

(問)ジッダ港の需要は。

(答)貨物取扱量は減少しているが、オペレーションを完全停止したわけではない。中国・アジア系船舶は入港している。各企業がトータルコストと紅海航路リスクを比較して、どちらを優先するかだろう。例えば、高付加価値商品の場合だと、輸送コストが高くなっても、リスク回避優先の観点から、ダンマン港の利用を考えるだろう。一方、汎用(はんよう)品などの場合は、リスクよりも輸送コスト優先と考え、ジッダ港の利用を考えるだろう。西部州のヤンブー港、NEOM港はまだ船会社は入っていないと聞いている。ヤンブー港は小型船しか入港できないため、ジッダ港での積み替えが生じている。

(問)紅海迂回の影響はいつまで続くとみているか。

(答)物流関係者で協議しているが、大方は「長期化する」との見方をしている。当面、フーシ派の船舶攻撃は落ち着いてきたが、イスラエルとハマスの衝突が継続している以上、リスクは顕在化したままだ。サウジアラビア政府もダンマン港の需要が高まり、逼迫しつつあることを受け、ハード面ではガントリークレーンの増設を行い、ソフト面では通関システムでエラーが発生するなどの脆弱(ぜいじゃく)性はあるが、常時アップデートを行うなど、改善の姿勢をみせている。

(問)航空貨物の需要は。

(答)緊急輸送品として航空貨物を利用する企業はあるが、件数は多くない。海上輸送の方が多く、航空貨物には影響は出ていない。

(問)日本企業が物流面で留意すべき点は。

(答)ダンマン港を利用する場合、配送期間の長期化(平均1週間増加)を考慮し、リードタイムを十分にとってほしい。東部州から西部州に陸送する場合、首都リヤドを経由するが、リヤド市内は走行可能な時間帯が定められており、輸送に遅れが生じる可能性がある。また、最近はコンテナの盗難事件も発生している。組織的な犯行ともいわれている。輸送業者は信頼のおける業者を選定するように心がけてほしい。

(林憲忠)

(サウジアラビア)

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