最低賃金を約1年ぶりに実質的に引き上げ

(ミャンマー)

調査部アジア大洋州課

2024年08月19日

ミャンマー連邦政府の最低賃金委員会は8月9日、現行の最低賃金に対し、日額1,000チャット(約71円、1チャット=約0.071円)の手当を増額することを発表し、実質的に最低賃金を引き上げた。

具体的には、前回の2023年10月1日の改定額である日額5,800チャット(2023年10月16日記事参照)に対し、1,000チャットの日額手当を加算し、合計6,800チャット(17%増)とした。今回は前回に引き続き1日当たりの手当での増額で、最低時給額(600チャット/時間×8時間)の変化はないため、残業代などは増額の対象にならない。また、今回の日額手当の増額支給は、8月1日にさかのぼって適用されることも発表された。

ミャンマーでは、2021年の政変以降に現地通貨安が進行している。現在の公定レートは1ドル=2,100チャットで、今回の最低賃金を換算すると3.2ドル/日となる。しかし、現在は市中の実勢レート(注)が公定レートから大きく乖離し、引き下がっている(1ドル=6,000チャット前後)。そのため、現在の市中レートで換算すると1.3ドル/日となり、2023年10月の引き上げ時のドル換算額(1.8ドル/日)と比較しても、ドル建てでは最低賃金は0.5ドル低下している。

また、同国では政変以降、人材の国外への流失が進んでいるが、2024年4月に開始された徴兵制はその流れを加速化させている。同様の流れとしては、ミャンマー人材の雇用を前提とした労働集約型工場の国境対岸(隣国)への設立が進んでいる。国内最大産業である縫製業の複数の関係者によれば、これまではそのような工場はタイ国境付近が中心だったが、中国との国境でも工場設立が増加し、こうした国外拠点へ人材が流出している(ジェトロのヒアリング、2024年8月時点)。こうしたミャンマー人材の国外流出に対抗するため、国内最大の産業である縫製業の労働者の賃金は、今回の最低賃金の引き上げに関係なく上昇している。

(注)ミャンマーの為替レートは、中央銀行が公表する公定レート、市中の実勢レート、外貨強制兌換(だかん)を免除された法人や個人による外貨取引を中央銀行で一元化した「オンライン取引プログラム」で成立・承認されたレート、の3つが存在する。

(アジア大洋州課)

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