欧州会計検査院、グリーン水素に関する欧州委目標は野心的すぎると指摘
(EU)
ブリュッセル発
2024年07月31日
欧州会計検査院(ECA)は7月17日付の報告書で、グリーン水素の生産と需要に関する欧州委員会の2030年目標はあまりにも野心的だと指摘した。EUはグリーン水素市場の構築に向けて取り組んでいるが、水素のバリューチェーン全体において課題があり、目標達成は困難だと分析した。現実的、かつEUの主要産業の競争力を損なわず、新たな依存関係を生み出さない目標と戦略的方向性を確認するよう求めた。
欧州委は、2030年までにグリーン水素の生産と輸入を、いずれも1,000万トンとする目標を設定。2021~2027年までに、復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)やイノベーション基金などの複数のプログラムから合計188億ユーロの資金を関連プロジェクトに充てることを見込んでいる。
ECAは、EUの2030年目標は政治的なもので、分析に基づいた数値ではなく、加盟国との調整も十分になされた上で設定されたものではなかったと指摘。グリーン水素の活用は、鉄鋼や石油化学、セメント、肥料など、電化が困難な産業の脱炭素化や2050年の気候中立達成に貢献し、ロシアの化石燃料への依存をさらに減らす上で重要だと強調した。欧州委は短期間にグリーン水素に関する法的枠組みを提案し、市場確立を後押ししたものの、定義付けに時間を要し、需給の見通しが不透明で、民間投資が先送りされていると分析した。また、欧州委は必要な資金の全容を把握しておらず、資金は複数のプログラムに分散しているため、企業側は最適な資金の判断が困難である点を指摘。EU資金の大部分は、脱炭素化が困難な産業に割り当てられた結果、ドイツやスペイン、フランス、オランダなどの一部の加盟国にのみ利用されているとした。さらに、EUの水素製造や輸送に必要な資金を確保できるかは依然として不確かだとした。
ECAは、(1)水素の生産と利用に対する市場インセンティブの調整、(2)限られたEU資金の優先的な活用とバリューチェーンの中で集中的に支援する分野の選定、(3)EU域内で維持したい産業を慎重に評価し、水素戦略をアップデートするよう欧州委に求めた。
(大中登紀子)
(EU)
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