米連邦控訴裁、学生ローン返済プランの執行停止命令、経済的な影響の広がりにも懸念
(米国)
ニューヨーク発
2024年07月22日
米国の連邦控訴裁判所は7月18日、学生ローンの利用者800万人が加入する、価値ある教育への貯蓄(SAVE)プラン(米教育省、ブラック ジャック)について、結審するまで全面的に差し止める命令を出した。この命令は、6月にミズーリ州地方裁判所が示したSAVEプランの一部差し止め命令(米地方裁判所、ブラック ジャック)に対して、同州や原告側が全面的な差し止めを求めて控訴したことによるもの。
6月の地裁判決とは異なり、差し止めの対象が限定されていないことから、結審までの間、SAVEプランに係る規則が全面的に停止されることとなる。このため、同規則に基づいて行われてきた学生ローン返済利率の削減や、条件を満たした場合のローンの残額免除などの措置が全て実施不能となった。
この命令を受け、共和党では、ミズーリ州のアンドリュー・ベイリー州司法長官が「自力で返済することを信じている全ての米国人にとって大きな勝利だ」と述べたほか、ビル・キャシディ上院議員(共和党、ルイジアナ州)も「判決は、バイデン大統領の違法な学生ローン制度に対するさらなる非難だ」「(SAVEプランは)大学進学のために進んで借金をした者の負債を、大学進学を断念した者やローンを完済した者に転嫁するもので、米国の納税者を犠牲にして票を買おうとする権力の乱用だ」と述べるなど、今回の判決を歓迎している(フォーブズ7月19日)。
他方、ミゲル・カルドナ教育長官は7月19日に声明を発出し、「バイデン大統領のSAVE計画を阻止する本日の控訴裁判所の判決は、月々の支払いに苦しんでいる何百万人もの学生ローンの借り手に壊滅的な結果をもたらす可能性がある。共和党の選出した公職者が起こした政治的動機に基づく訴訟が何百万人もの借り手の支払い軽減の妨げになっていることは恥ずべきことだ」と激しく非難した。また同時に、今回の決定を受けて、SAVEプランに基づく返済については、結審までの間、無利子で猶予する措置を実施することも発表した。
SAVEプランを巡る司法闘争は今後も継続される見込みだが、仮に同プランが最終的に停止された場合には、800万人の加入者に影響が及ぶこととなる。特に若年層など経済的に余力の少ない層への打撃は必至で、学生擁護団体は「SAVEプランによって低額に抑えられた支払いに依存してきた何百万人もの借り手の生活を一変させ、支払いが滞るリスクを高める可能性がある」と指摘している(政治専門紙「ザ・ヒル」7月19日)。
学生ローンを巡る混乱の影響は司法面や政治面にとどまらない。学生ローンは家計債務の1割強を占めており、これに係る月々の返済がどの程度のものとなるのかは、中・低所得者層の可処分所得にも無視できない影響をもたらし得る。中・低所得者層の消費の減速は、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)でもリスクの1つとして取り上げられており、SAVEプランを巡る対立が米国経済のリスクを高めることにつながらないか懸念されるとともに、11月の大統領選挙への影響も注目される。
(加藤翔一)
(米国)
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