公的健康保険制度の医療費抑制策、国民投票で否決

(スイス)

ジュネーブ発

2024年06月17日

スイスで国民投票が6月9日に実施された外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。「健康保険料の軽減」と「基礎健康保険制度のコスト抑制策の導入」「ワクチン接種などの身体的・精神的な影響を及ぼす侵襲的な処置に関する義務の禁止」の3つのイニシアチブ(国民発議、注1)と「再生可能エネルギーによる電力の安定供給に関する連邦法」に関するレファレンダム(注2)の投票が行われた。3つのイニシアチブは順にそれぞれ、反対55.47%(投票率45.42%)、反対62.77%(45.37%)、反対73.73%(45.34%)で全て否決され、レファレンダムは賛成68.72%(45.39%)で可決された〔連邦参事会(内閣)サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。

最初の2つのイニシアチブは、ともにスイスの公的健康保険制度である基礎健康保険制度に関するものだ。健康保険料の高騰(2020年9月14日付地域・分析レポート参照)は近年、常に国民の関心事の上位になっている。それぞれ、健康保険料の上限を可処分所得の10%までに抑えることや、基礎健康保険制度の保険医療コストの増加を賃金上昇と経済成長率に基づいて決定される上限以下に抑えることを求めた。連邦参事会や議会は、前者に対しては年間数十億スイス・フラン〔1スイス・フラン(CHF)=約177円〕の追加費用がかかり、医療費抑制にはならないとして、後者に対しては高齢化や医療の進歩など医療費増加の要因を考慮しておらずに硬直的として、国民にいずれも反対するよう呼び掛け、それぞれ州に健康保険料が増加した際の負担軽減のための拠出金負担を求めることや、連邦参事会が4年ごとに医療関係者と協議して基礎健康保険制度のコストの許容可能な上昇幅を決めることなどを盛り込んだ間接的対案を示していた。

3つめのイニシアチブは、新型コロナウイルス感染が拡大した2020年に提案され、ワクチン接種などの身体的・精神的な影響を及ぼす侵襲的な処置に関する義務の禁止を求めたもの。同内容は既に憲法で保障されており、同意なくワクチン接種を受けさせられることはないため、全ての州で反対が過半数となった。

「再生可能エネルギーによる電力の安定供給に関する連邦法」に関するレファレンダムは、水力、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーによる電力生産を増強し、スイスの電力供給の独立性を強化するための基礎となる法律だ。気候が冷涼なスイスでは、夏に電力需要が低く、冬は高い。冬に安定的な電力輸入ができなければ、電力不足に陥る危険があるため、再生可能エネルギー発電の増強による電力の安定供給が求められている。

(注1)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。

(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。

(深谷薫)

(スイス)

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