米最高裁、人工妊娠中絶薬の流通を引き続き許可、体外受精の全米アクセスは上院共和党が阻止
(米国)
ニューヨーク発
2024年06月17日
米国の最高裁判所は6月13日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の流通を認める判断を下した。最高裁は経口中絶薬の使用許可の見直しにあたり、審理中は薬の流通を当面維持するとの判断を2023年4月21日に下しており(米最高裁、ブラック ジャック)、今回の判決で流通の権利は確実となった。
ミフェプリストンは妊娠中絶に使用されるため、米国食品医薬品局(FDA)による承認に対して、2002年から中絶反対派による提訴が相次いでいた。今回の提訴は、人工妊娠中絶反対派の医学同盟や教会などが原告となったもので、経口中絶薬は手術による中絶よりも母体に合併症を引き起こす可能性が高いなどとして、2022年11月にテキサス州の地方裁判所に提訴していた。判決内容によると、連邦裁判所に提訴するには、原告が事実上の損害を被ったこと、または被る可能性が高いことを示さなければならないものの、「原告はFDAの取り決めが(医師に)良心の損害を負わせることを証明しておらず、証明することもできない」「連邦法は、医師の良心に反して人工中絶手術や人工中絶薬を提供することを義務付けられておらず、医師は連邦法で守られている」とし、原告の医師らは具体的な損害を受けておらず訴訟を起こす資格がないとして、原告の主張を退けた。
同日、カマラ・ハリス副大統領は、この判決に関して声明を発表し、「(この判決結果は)喜ぶべきことではない。現実はまだ変わらないからだ」とし、「この判決は、ドナルド・トランプ氏(共和党)の同志らが、全てに失敗した際に、行政措置によって人工中絶薬を排除する計画があるという事実を変えない」と述べた。
また、米国連邦上院は6月13日、体外受精(IVF)を含む不妊治療への全国的なアクセスを保護・拡大するための法案の採決を取った。法案を可決するには賛成票60票が必要となるが、賛成48票、反対47票、棄権5票となり、法案は可決されなかった。60票を獲得するには、共和党から9人の賛成票が必要とされたが、スーザン・コリンズ氏(メーン州)とリサ・マコウスキー氏(アラスカ州)の2人のみ賛成票を投じた。
人工妊娠中絶は、11月の大統領選挙でも争点の1つとなっており、これに関し、ジョー・バイデン大統領は同日の声明文で、「共和党議員は、最高裁が『ロー対ウェイド判決』を破棄してから、生殖の自由を守るあらゆる機会があったにもかかわらず、それを拒否している」とし、「われわれは、議会の民主党議員と共に、全ての州の全ての女性のために連邦の法律で『ロー対ウェイド判決』の保護を回復するまで戦い続ける」と述べた。
(吉田奈津絵)
(米国)
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