中国のガンフォン・リチウム、メキシコ相手に国際仲裁申し立て

(メキシコ、中国)

調査部

2024年06月25日

中国のガンフォン・リチウムの子会社3社(注)は4月21日、メキシコ北西部ソノラ州に権益を持つリチウム鉱床の開発コンセッションをメキシコ経済省が取り消したことに対し、投資紛争解決国際センター(ICSID)に国際仲裁を申し立てた。ICSIDへの登録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、メキシコ政府によるコンセッション取り消しは、メキシコと中国、メキシコと英国(子会社2社の出資元)の間の2国間投資保護協定(BIT)に違反するとしている。

ガンフォンが2022年初めに英国企業から買収して子会社化したバカノラ・リチウムは、2009年からコンセッションや各種許認可の取得、資源探査を実施していた。「エル・フィナンシエロ」紙(6月24日付)と国際仲裁専門誌「GAR」(同日付)によると、メキシコ経済省は2023年8月、同社が政府に約束した2017~2021年の期間の最低投資額を実行に移さなかったという理由で、コンセッションを取り消すと通知した。ガンフォン側は十分な投資を行ったとする不服申し立てを行ったが、認められず、同年11月に最終的な取り消しが決定された。ガンフォン側は同決定の無効を求める訴訟を連邦行政裁判所に提起し、現在審理中の状況にある。

ガンフォン側はメキシコ国内の訴訟と並行して、今回の国際仲裁を申し立て、メキシコが締結したBITに基づき、コンセッション取り消しに伴う損害賠償に加え、これまでの金利負担や仲裁費用などをメキシコ政府に請求する構えを見せている。

ガンフォン側、国家独占による開発は困難

バカノラ・リチウムが進めるソノラ・リチウム・プロジェクトは、炭酸リチウム換算(LCE)で約880万トンの資源量が見込まれるメキシコ最大のリチウム鉱床だ。今回の紛争の背景には、2022年4月にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が国会に提出し、同月に国会を通過して公布された鉱業法の改正に基づくリチウム開発の国家独占がある()。この改正では、既存のコンセッションの取り扱いが明確化されていなかったが、AMLO大統領の意向(政府、ブラック ジャック ルール)もあり、最低投資額を満たさなかったという理由の下で取り消しプロセスが始まった。

AMLO大統領は、戦略的資源として国がリチウム開発の主体になることを目指し、クラウディア・シェインバウム次期大統領も、基本的に同方針を継承する見通しだ。しかし、国による開発の実効性に疑問を呈する声もある。バカノラ・リチウムのピーター・セッカー最高経営責任者(CEO)は2023年11月、許認可の問題が解消すれば「18カ月でリチウム生産開始にこぎつけられるだろう」と語るとともに、「今までの掘削活動を経て粘土層からリチウムを抽出する方法を探ってきた当社だからできるのであり、国が開発を独占した場合、資金と技術の制約から、生産開始までには20年を要するだろう」と語っていた(「エル・フィナンシエロ」紙2023年11月10日付)。

(注)バカノラ・リチウム(英国)、ソノラ・リチウム(英)、ガンフォン・インターナショナル・トレーディング(中国)の3社。

(中畑貴雄)

(メキシコ、中国)

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