EU、建物の脱炭素化を目指す指令施行、グリーン・ディール産業関連法の実施段階に注視

(EU)

ブリュッセル発

2024年06月06日

EUでは5月28日、建物のエネルギー消費と温室効果ガス(GHG)排出の削減を目指す建物のエネルギー性能指令の改正外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が施行された。5月23日に開催されたセミナー(注1)では、加盟27カ国で今後、同指令を国内法化するに当たり、政治的意思と市民社会の意思が必要なことが指摘された。

欧州委員会のエネルギー総局(DG ENER)は、建物は単体としてではなく、太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電、エネルギー需要の軽減、充電インフラとの接続などが関連するエネルギーシステムの一部として考える必要性を強調。その上で、まずはエネルギー性能が最下層の建物の改修から取り組むべきとした。病院や学校などの非居住用建物の改修により、建物の価値やサービスは向上する。また、生活環境や労働条件の悪い集合住宅の改善により、光熱費の軽減のみならず、建物の価値や品質が向上する。利便性を実感する市民が増え、事例が増えることで投資も拡大し、10~15年の長期的な視野で投資の回収は可能と説明した。

欧州建物エネルギー効率化連盟(EuroACE)は、建物の改修は新たなビジネス機会ではあるものの、現在は「徹底的な改修(deep renovation)」(注2)が実施されている建物の割合は0.2%にすぎず、目標達成には約15倍に増加させる必要があると指摘。このため、各加盟国が相応の支援を提供する必要があり、気候中立目標を掲げる2050年までにスピード感を持って進める政治的な意思が必要とした。また、現状は欧州域内の25%が不十分な住環境に住んでいるとして、人々が最も多くの時間を過ごす場所に対して、投資をする意識改革が必要とした。さらに、建物は欧州企業が強みを持つ分野であることから、建物の改修は域内の産業力強化につながることからも、政策の中核に置かれるべきと強調した。6月の欧州議会選挙後の次期欧州委に、気候中立目標達成に向けた具体的な実行を期待し、実施状況の見える化などが必要とも言及した。

欧州議会選挙を前に、同指令を含むグリーン・ディール政策の産業関連法はほぼ成立し(2024年5月28日記事参照、添付資料表参照)、新体制での実施が注視される。

(注1)EUの研究開発支援枠組み「ホライゾン・ヨーロッパ」の助成を受けて実施されたもの。

(注2)EUの「リノベーション・ウエーブ戦略」の詳細は、ジェトロ調査レポート「新型コロナ危機からの復興・成長戦略としての「欧州グリーン・ディール」の最新動向(2021年3月)」を参照。

(薮中愛子)

(EU)

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