バイデン米政権、ドイツ系自動車工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請

(米国、メキシコ、ドイツ)

ニューヨーク発

2024年05月30日

米国通商代表部(USTR)は5月28日、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)・グループのメキシコ施設で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。同日の米国労働省の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、労働省とUSTRは、フォルクスワーゲン・グループのメキシコ関連会社であるフォルクスワーゲン・デ・メヒコの元従業員から申し立てを受けたとしている。フォルクスワーゲン・デ・メヒコが、組合活動に対する報復としてメキシコ中部プエブラ州の施設の労働者を解雇したとして、結社の自由および団体交渉権を侵害した疑いがあるとの理由に基づく。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は対象施設からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、当該施設からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

メキシコのプエブラ州クアウトランシンゴには、フォルクスワーゲン・デ・メヒコの本社、車両・部品工場が所在する。同社によると、同工場では2023年に34万9,227台の車両が生産された。労働省によると、同年に同工場で生産された車両の67%が米国で販売された。

バイデン政権は、「労働者中心の通商政策」を掲げ、貿易相手国企業に米国企業と同等のコンプライアンス基準を求め、その競争条件を平準化することで労働者の権利を保護し、いわゆる「底辺への競争」の防止や、米国の雇用・経済的利益の確保を図っている(米USTR、2024年の通商課題を報告、ブラック)。この観点から、米国からメキシコに対するRRMの利用は、特に2023年以降に発動件数が増加、対象分野が拡大しており、今回で2024年に入ってからは5件目、USMCA発効以降では23件目となる。これまでのRRMに基づく措置については、USTR外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますまたは労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのウェブサイトを参照。

(葛西泰介)

(米国、メキシコ、ドイツ)

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