延期されたセネガル大統領選で野党のファイ氏が当選、政権交代へ

(セネガル)

アビジャン発

2024年04月05日

延期により混乱の中で3月24日に行われたセネガル大統領選で、野党の労働・論理・博愛のためのセネガル・アフリカ愛国党(PASTEF)候補のバシル・ジョマイ・ファイ氏が243万4,751票(得票率54.28%)を獲得し、当選した。29日に憲法評議会の承認を受け、4月2日に大統領に就任した。12年間政権を握っていたマッキー・サル前大統領の後継者の与党連合(ベンノ・ボック・ヤーカール、BBY)候補のアマドゥ・バ氏の得票数は160万5,086票(得票率35.79%)で、ファイ氏に大きく引き離された。

今回の選挙を巡っては、2月3日にサル大統領(当時)が選挙の無期限延期を発表するなど、異例の事態に国内で緊張が高まり、国際社会も憂慮を示していたが(、憲法評議会は同15日、無期限延期に関する大統領令は違憲との判断を示し、憲法にのっとって選挙日程を再調整するよう当局へ要請していた。その後、サル氏のイニシアチブで開催された国民対話の結果、第1回投票を6月2日に実施し、サル氏の任期については憲法が定める4月2日から延長すると提言されたが、憲法評議会はこれらの提案を却下し、選挙を4月2日までに行うことと、大統領の任期延長は認められないことを通達した。これを受け、サル氏と憲法評議会は3月24日に投票を実施することで合意し、今回の選挙実施に至った。

選挙に敗れたバ氏はファイ氏に電話で当選を祝福するとともに、セネガルの民主主義の成熟さと活力が世界に示されたと述べ、サル前大統領もまた、大統領選挙の円滑な運営を賞賛し、ファイ氏の当選を祝福した。

ファイ氏は投票翌日、記者会見で演説を行い、国内外の有権者の信頼に謝辞を述べるとともに、自由で民主的かつ透明性のある選挙を実現したサル前大統領の采配を祝した。ファイ氏はまた、PASTEFの規約に基づき、2022年10月から務めていた党の事務総長職を辞任することを表明した。セネガルでは、大統領が党首を兼任することが長きにわたって批判されてきたことから、この決定は透明性と妥当性を示す決意として、権力集中との決別の象徴と受け止められている。また、今後の政権運営では、誠実さと透明性をもって、あらゆるレベルで汚職と闘うことを約束するとともに、目下の課題として、(1)国民和解、(2)制度の再建、(3)生活費の大幅削減、(4)公共政策を巡る対話という取り組みを掲げた。選挙運動を通じて公開された「主権のある公正で豊かなセネガルを目指す」というPASTEFの公約は、セクターごとに20のプロジェクト(注)に整理される。このうち、サル前政権からの主な政策上の変更点は次のとおり。

  • 制度改革・民主主義:大統領の権限縮小、副大統領職の導入
  • 農業:家族経営の農地の権利確保に基づいた農地改革、農協・農村専門組織の再活性化、セネガル川デルタ地帯・ファレメ川流域整備開発公社(SAED)の役割見直し
  • 水産:零細漁業の漁場確保(12マイル海域)、ダカール・チャロイ海洋研究センター(CRODT)再編
  • 鉱工業:工業加速計画(PAIS)2024-2029の設置、鉱業関連契約の見直し、5つの地域ごとに特化した農林水畜産加工の推進
  • 国民教育:教育システムへの民族語とダーラ(コーラン学校)の統合
  • 保健:予防に配慮した皆保険制度の改編
  • 経済:農業に根差した輸入代替による内生的経済モデルの設置、8つの州経済拠点の設置、通貨主権、免税縮小・税務行政改革・不正腐敗撤廃、インフォーマルセクターのフォーマル化
  • エネルギー:企業向けに競争力ある電力価格、消費者向けに1キロワット時(kWh)当たり平均60CFAフラン(約15円、1CFAフラン=約0.25円)の提供

訴追されて大統領の被選挙資格を失ったPASTEF党首のウスマン・ソンコ氏に代わって立候補したファイ氏は、カリスマ性のある党首を支える党のナンバー2だった。そのため、政治家としての手腕は未知数で、新政権がどのように選挙公約を実施していくのか注目される。

(注)3月23日付フェイスブック公式ページで公表。(1)制度改革・民主主義、(2)司法改革、(3)行政、(4)農業、(5)畜産、(6)水産、(7)鉱工業、(8)観光、(9)工芸、(10)スポーツ、(11)国民教育、(12)高等教育、(13)職業訓練、(14)保健、(15)女性自立化、(16)経済、(17)職・雇用、(18)障害者の権利保護、(19)エネルギー、(20)水

(安藤真由美、藤本海香子)

(セネガル)

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