バイデン米政権、メキシコ政府に鉄鋼部品工場での労働権侵害の疑いで確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2024年04月03日

米国通商代表部(USTR)は4月1日、メキシコ北東部ヌエボ・レオン州の鉄鋼部品を製造するセルビシオス・インダストリアレス・ゴンサレス(SIG)の工場で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。今回USTRは、メキシコの労働組合から申し立てを受けたとしている。当該工場で、SIGが組合設立活動への報復として労働者を解雇するなど組合活動に干渉し、自社にとって好ましい労働組合を優遇した疑いがある、との理由に基づく。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は当該工場からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。なお、同日の労働省の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、SIGは鉄鋼部品を大手建設機械・産業機械メーカーなどに提供している。

バイデン政権は「労働者中心の通商政策」を掲げ、貿易相手国企業に米国企業と同等のコンプライアンス基準を求めてその競争条件を平準化することで、労働者の権利を保護していわゆる「底辺への競争」の防止や、米国の雇用・経済的利益の確保を図っている(米USTR、2024年の通商課題を報告、ブラック)。この観点から、米国からメキシコに対するRRMは、特に2023年以降に発動件数が増加および対象分野が拡大しており、今回で21件目となる。これまでのRRMに基づく措置については、USTR外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますまたは労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのウェブサイトを参照。

なお、直近ではメキシコからの鉄鋼の輸入が急増しているとの懸念に基づき、メキシコに対して1962年通商拡大法232条(注)に基づく追加関税(現在は適用除外措置が講じられている)の再賦課に関する話題がUSTRや連邦議会から上がっている(ブラック ジャック やり方3月15日記事参照)。

(注)トランプ前政権は2018年3月以降、鉄鋼・アルミニウム製品の米国内生産が安全保障上不可欠として、輸入増加および中国を中心とした過剰生産により米国内産業が損害を受けていることを理由に、それぞれ25%、10%の追加関税の賦課を開始した。メキシコからの輸入に対しては2019年5月に適用除外措置が講じられた。

(葛西泰介)

(米国、メキシコ)

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