米国の有力映画賞で「君たちはどう生きるか」が最優秀アニメ賞受賞、アジアの躍進、組織改革に注目集まる

(米国、日本)

ロサンゼルス発

2024年01月19日

米国カリフォルニア州ビバリーヒルズで1月7日、第81回ゴールデン・グローブ賞授賞式が開催され、宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」が最優秀アニメ―ション映画賞を受賞した外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

同賞は、選考に関わる投票者のダイバーシティー問題に端を発し、2022年から相次ぐボイコットに見舞われていた。主催団体が変更されてから初の授賞式となる今回、投票者の多様性も大幅に改善され、授賞式はフィリピン系米国人コメディアンのジョー・コイ氏がアジア系男性として初の司会者を務めると同時に、アジア系のスターやアジア関係者の作品の躍進が目立つ結果となった。

最優秀アニメ―ション映画賞部門には、「君たちはどう生きるか」のほか、新海誠監督作品「すずめの戸締り」もノミネートされた。「君たちはどう生きるか」は作品賞部門以外に作曲賞でもノミネートされ、本作の音楽担当の久石譲氏も授賞式に出席した。

2003年に宮崎駿監督はアカデミー賞で最優秀長編アニメ賞(「千と千尋の神隠し」)を受賞し、今回の作品は10年ぶりの受賞となった。この10年間でストリーミングサービスが隆盛を極めるという市場の変化があった。スタジオジブリの作品は米大手ストリーミング会社MAX(旧HBO MAX)でほぼ全作品(現在23作品)が2020年から独占配信されており、以前から宮崎アニメファンの裾野が広がった中での本作のヒットと高評価は、米国での一層の日本アニメや関連ビジネスの浸透に拍車をかけるとみられる。

また、新設された「興行成績アチーブメント賞」には、日本の人気ゲームのハリウッド映画化作品「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」や、真田広之が出演した「ジョン・ウィック:コンセクエンス」もノミネートされた。

コメディー部門テレビシリーズ賞では、ロサンゼルスのアジア系コミュニティーを舞台にした「BEEF/ビーフ」が最優秀作品賞、最優秀主演女優・俳優賞も受賞した。同作品では日本人監督HIKARI氏が10話中3話を監督している。今後の日本コンテンツのブラック ジャック ディーラー進出を考える上で、日本の優秀な人材がハリウッドで本場製作の作品として認められたという点は、今までの「日本で製作した作品をいかに売るか」だけではない、新たな方向性を示したといえる。

同賞は毎年、全国ネットのテレビ局で放映され、全米で最も権威ある映画賞アカデミー賞の前哨戦と言われていた由緒ある映画賞だった。しかし、主催団体のハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が映画製作会社から多額の接待を受けていたことなど組織内部の問題が表面化。さらに、同賞はHFPA会員が選考の投票権を有する仕組みだが、同会には19年間にわたって黒人会員が在籍していないことが2021年に判明したことで、多様性の欠如が問題視され、2022年の授賞式では俳優らがボイコット運動を起こした上、テレビ中継が中止された。

2023年にはテレビ中継が再開されたが、6月に主催団体HFPAが解散、別会社が権利を買い取り、放送局も1996年から放映していたNBCからCBSに急きょ変更された。

また、今回から、人種の多様性を追求した投票者の拡大も行われた。2021年以前は87人55カ国で構成していた投票者らは、独占的で人種構成に偏りがあるといわれていたが、批判を受けて現在は75カ国300人に拡大した。投票者数が1万人規模のアカデミー賞と比べると格段に少ないが、多様性の観点から大幅に改善したといえる。

こうした選考委員の多様性の拡大や、主催団体や放送局を変更して実施されたことで、2023年と比べて1.5倍の940万人が視聴したとされる(「ロサンゼルス・タイムズ」紙電子版1月8日)。

(津脇慈子、仲野千晶)

(米国、日本)

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