米エネルギー省、FTA非締結国向けLNG輸出認可の一時停止を発表
(米国)
ニューヨーク発
2024年01月30日
米国エネルギー省(DOE)は1月26日、液化天然ガス(LNG)の自由貿易協定(FTA)非締結国向け輸出許可の発給を、一時的に停止すると発表した。
米国では天然ガス法(NGA)のもと、LNGの輸出には「公共の利益」が必要とされる。米国がFTAを締結している国への輸出に対しては、公共の利益があるとみなされるが、FTA非締結国に対しては、DOEなどによる審査が行われる。DOEは今般、天然ガス産業は過去10年間で変容し、安全保障や環境への配慮などを含めて、審査内容を更新する必要があるとしている。
ジョー・バイデン大統領は同日、「LNGの新規承認を一時停止することで、気候変動の危機を、われわれの時代の存亡に関わる脅威であることと認識する」との声明を発表した。続けて、「MAGA(注)を掲げる共和党が気候危機の緊急性を故意に否定し、米国民を危険な未来に追いやる一方で、私の政権は(気候変動対策に)無関心ではない」と共和党を批判した。また、ホワイトハウスは、今回の決定を称賛する団体や議員などのコメントを発表した。その中には、シエラクラブやクライメート・アクション・キャンペーンなどの環境保護団体が含まれているほか、日本や韓国、ドイツなど米国外の団体や識者のコメントも含まれている。今回のバイデン政権の決定は、環境保護活動家や気候変動対策に積極的な民主党議員などが、後押ししていたという(議会専門誌「ザ・ヒル」1月27日)。
一方で、共和党議員を中心に反発もみられる。下院エネルギー・商業委員会のキャシー・マクモリス・ロジャース委員長(ワシントン州)は同日に声明を発表し、「米国のエネルギー安全保障や同盟国の安全保障よりも、過激な活動家の意向を優先させるもの」と述べた上、ロシア産エネルギーからの依存軽減を図る欧州を念頭に「プーチン大統領への贈り物」と痛烈に批判した。また、上院エネルギー・天然資源委員会に所属するビル・キャシディ議員(ルイジアナ州)は、25人の共和党議員とともにバイデン大統領らに対して今回の決定を批判する書簡を送っている。なお民主党でも、上院エネルギー・天然資源委員会の委員長で、天然ガスを主力産業の1つとするウェストバージニア州選出のジョー・マンチン議員は「米国の労働者、企業、そして困っている同盟国を犠牲にして気候変動活動家に迎合するための政治的策略にすぎないのであれば、私はこの一時停止を直ちに終了させるために全力を尽くす」との声明を出している。産業界からは、全米商工会議所や米国石油協会(API)が政権の決定を批判する声明を出している。
なおDOEは、既に許可されている日量480億立方フィートの輸出と、欧州や日本を含む同盟国・地域など既に許可を得ている場合の輸出には影響しないとしている。DOEの発表によると、2023年の米国のLNG輸出の60%以上は欧州向けだった。
(注)Make America Great Again(米国を再び偉大に)の略。ドナルド・トランプ前大統領が選挙キャンペーンで持ち出したスローガン。
(赤平大寿)
(米国)
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