日本発ベンチャーのサーマリティカ、超断熱素材で東南アジアの環境に貢献へ

(シンガポール)

シンガポール発

2023年12月01日

サーマリティカ(Thermalytica Inc.、本社:茨城県つくば市)は、同社が開発・製造した超断熱素材「TIISA®(ティーサ)」の普及を通じて、東南アジアの温暖化対策への貢献を目指している。同社は11月2日、シンガポール企業庁(エンタープライズ・シンガポール)が主催するアジア最大級のディープテック分野スタートアップのピッチコンテスト「スリングショット」で、優勝した。日本発のスタートアップが同コンテストで優勝するのは初めて。

サーマリティカは物質・材料研究機構(NIMS)発のスタートアップで、2021年4月に創業した。TIISAは、創業者であるウー・ラダー最高技術責任者(CTO)が19年間におよぶ研究を基に、開発した高性能の断熱素材。一般的な断熱材と比べると、高い断熱性と耐火性を持つほか、コスト競争力もある。屋根の断熱材など建材として使用した場合、外部の気温を遮断し、室内の温度を下げることができるという。また、ウーCTOはジェトロとのインタビュー(2023年11月14日)で、工場内の製造装置に断熱材として用いることで、「製造業全体のエネルギー消費量を2割減らしたい」と述べた。同社は現在、日本国内で行政および企業と連携して、建材や工場の機械の断熱効果の概念実証(PoC)を実施中だ。

ウーCTOは、多くの製造業が「製造活動を東南アジアへシフトしている」と語り、TIISAの販売先として同地域に着目する理由を説明した。小沼和夫最高経営責任者(CEO)は「アジアは世界の工場。(温暖化対策のために)エネルギーを多く使う工場から着手しなくてはいけない」と強調した。同CTOは「サーマリティカを国際的な大企業にしたい。我々の素材を皆に使ってもらいたい」と抱負を語った。

長期的には液化水素の運搬用の断熱材に使用へ

サーマリティカは長期的には、TIISAを液化水素の運搬貯蔵の断熱向けに用いることを目指している。液体水素は運搬中に、常時マイナス253度以下で保冷する必要があるが、既存の断熱材では保冷が難しい。運搬中に温度が上昇して液化水素が気化(ボイルオフ)すると、多額な金銭的な損失が生じてしまう。同社は現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から助成金を得て、研究を進めている。

(本田智津絵)

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