フランス郵政公社が人権への注意義務法違反で有罪判決
(フランス)
パリ発
2023年12月15日
パリ司法裁判所は12月5日、フランス郵政公社(ラ・ポスト・グループ)に対し、人権に関する注意義務を企業に求める「親会社および発注会社の注意義務に関する法律(注意義務法)」()の違反により、有罪の判決を下した(パリ司法裁判所の判決参照)。ラ・ポストの労働組合SUD-PTTが2021年12月22日に、同社が数百人の不法労働者を下請け契約で常態的に就労させていることや、グループ内の安全衛生作業手順が注意義務法に違反しているとして提訴していた。2017年3月の注意義務法の施行以来、裁判所が同法の適用について下した初めての有罪判決となった。
同法は、連続する2年の会計年度において(1)フランス国内に本社があり、直接・間接の子会社を含め合計5,000人以上の従業員を雇用している企業、または(2)フランス国内外に本社がありフランス国内で活動し、全世界で直接・間接の子会社を含め合計1万人以上の従業員を雇用している企業に、人権や環境への注意義務に関する計画書の作成と同計画の実施を義務付けている。
同裁判所は、「(計画書における)ラ・ポストによるリスクの特定、分析、優先順位付けを目的とするリスクマップは、注意義務の優先順位が非常に一般的で、優先的に実施または強化する措置を特定できない不明瞭なもので、法的要件を満たしていない」と判断し、同社に対し(1)リスクを特定・分析し優先順位を付けるためのリスクマップにより計画書を補完すること、(2)リスクマップにより特定された明確なリスクに基づき下請け業者を評価する手順を確立し、(3)労働組合と協議の上、警報と通報の収集のためのメカニズムを備えた注意義務に関する計画書の作成を完了し、(4)その計画の実施を監視する措置を公開するよう求めた。
他方、労働組合の要求事項だった「サプライヤーや下請け事業者のリストの計画書への統合」「下請け事業者の安全確保など保護措置を講じるための差し止め命令」「グループ内、下請け事業者、サプライヤーなどの心理社会的リスク防止など注意義務に関する措置の効果的な実施」については、「上流で実行されるべき正確なリスクの特定、分析、優先順位付けがなされていない状況では、下請けや、心理社会的リスクとハラスメントの防止について追加措置を講じる必要性は、現状では証明されない」として却下した。
同裁判所はまた、ラ・ポストが計画書を年々改正しており、2020年のものと比較すると2021年の計画書には著しい改善が見られることを考慮し、「命令が履行されるまでの期間に科される罰金措置は必要ない」との見解を示した。
今回の判決を受けて、SUD-PTTは「これは大勝利だ。親会社が下請け企業の行為に責任を負うことを求める注意義務の適用において、大きな前進を意味する。この判決により、注意義務が、バリューチェーン全体のリスクに適応した対策を講じる具体的な義務として明記されることとなった」と満足の意を表した。
一方、ラ・ポストは、判決の結果を公式に認めた上で、「注意義務法には施行令やガイドラインがないため、注意義務に関するEU指令が採択されるまで、企業は法的に大きな不確実性にさらされている」としながらも、「法律が推奨する価値観を全面的に支持し、引き続き最善の努力をすることを約束する」とした。
(奥山直子)
(フランス)
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