欧州委、2023年のGDP成長率予測を0.6%に下方修正、地政学リスクの高まりも
(EU、ユーロ圏)
ブリュッセル発
2023年11月22日
欧州委員会は11月15日、秋季経済予測を発表した(添付資料表1、表2参照)。2023年のEU27カ国(以下、EU)とユーロ圏20カ国(以下、ユーロ圏)の実質GDP成長率をともに0.6%と予測し、9月の夏季経済予測(中間予測、注)(欧州委、ブラック ジャック トランプ)から、各0.2ポイント下方修正した。前回の包括的予測である5月の春季経済予測(欧州委、2023年のEUのGDP成長率予測を上方修正、ブラック)からは、それぞれ0.4、0.5ポイント下方修正した。2024年の成長率は、EU1.3%、ユーロ圏1.2%と回復を見込むが、9月予測からは各0.1ポイント下方修正した。
EU経済は、2022年第4四半期(10~12月)はわずかに成長したものの、2023年第1~3四半期はほとんど成長せず、新型コロナウイルス感染拡大後の力強い回復の勢いは失われた。生活費の高騰は予想以上に消費に影響を与え、貿易も伸び悩んだ。一方、インフレに対する金融政策は効果が表れており、財政支援も一部で廃止され、政府支出が改善しつつあると評した。2024年は、実質賃金の上昇により消費が回復し、投資および外需の回復により、経済は穏やかに回復すると見通した。
2023年のEU加盟国別のGDP成長率は、エストニア(マイナス2.6%)を含む10カ国でマイナス成長を予測した(添付資料表2参照)。ユーロ圏主要国では、スペインは2.4%、フランスは1.0%、イタリアは0.7%とプラス成長が予測される中で、ドイツはマイナス0.3%とマイナス成長の見通しとなった。
2023年のインフレ率(消費者物価指数上昇率)の見通しは、9月予測と同様にEU6.5%、ユーロ圏5.6%となった。ユーロ圏のインフレ率は10月に過去2年間で最も低い水準に達し、以降も低下の見込みだ。
経済成長の鈍化にもかかわらず、労働市場は2023年前半も力強く拡大し、9月の失業率は過去最低に近い水準を維持した。依然として低失業率と高い欠員率、労働力不足が見られ、人手不足は課題となっている。2023年の失業率は、EUで6.0%、ユーロ圏で6.6%と予測した(添付資料表3参照)。
欧州委は、長引くロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとハマスの衝突により、不確実性と下振れリスクは過去数カ月で高まっているとした。エネルギー市場が最も懸念されるとし、再び供給に混乱が生じた場合、エネルギー価格、生産、物価に大きな影響が及ぶとした。特に、中国などEUの主要貿易相手国の経済動向によるリスクにも言及。内的要因としては、金融引き締め政策が経済に及ぼす影響は長期化する可能性を指摘した。また、気候変動に起因するリスクも高まっているとし、熱波や火災、干ばつ、洪水などの自然災害は、より頻繁に、かつ広範囲に及び、環境のみならず、経済にも影響を与える可能性があるとした。
(注)欧州委は春と秋にGDPの各構成要素や失業率、財政収支のGDP比などを含む包括的な経済予測を発表し、夏と冬に実質GDP成長率と消費者物価指数上昇率に関する中間予測を発表する。
(大中登紀子)
(EU、ユーロ圏)
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