2024年度予算案を発表、歳出増で財政収支は均衡から赤字に転落
(メキシコ)
メキシコ発
2023年09月14日
メキシコ大蔵公債省は9月8日、2024年度(暦年)歳入法案と歳出計画を国会に提出した。同歳入法案と歳出計画をみると、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)現政権下でも、伝統的に貫かれてきた財政収支均衡から逸脱した予算となっている。基礎的財政収支(プライマリー収支)はGDP比で1.2%の赤字に転落し、総合収支も4.9%の赤字に拡大する。歳入は前年度予算比で実質1.8%減少する一方、歳出は4.3%拡大させる。石油収入や手数料収入などを除く税収は2023年度歳入予算比で2.1%増を見込んでいるが、歳出は、計画的な歳出(一般会計)でみても、前年度比4.0%増と、税収以上に歳出を増やす計画となっている。債務残高の対GDP比は2023年度予算とほぼ同水準の48.8%にとどまるとしている。
予算策定の前提となる「経済政策一般基準(CGPE2024)」によると、政府は2024年の経済成長率を2.5~3.5%(中間値3.0%)としている(添付資料表参照)。民間シンクタンク36社の経済成長率見通しの平均値(2023年9月1日中央銀行発表)は1.66%、中央銀行が8月30日に発表した成長率見通しは2.1%となっており、かなり楽観的な見通しといえる。2024年のインフレ見通しは3.8%、中央銀行の3.1%よりは高いが、前述の民間シンクタンクの見通し平均値の3.98%よりは低い。また、米国の2024年の経済成長率を1.8%としており、民間シンクタンクの見通し平均値の1.07%と比較すると、かなり楽観的だ。
2024年総選挙対策との声も
大蔵公債省はCGPE2024で、2025年以降のプライマリー収支は黒字に戻るとしており、大幅な赤字予算を組むのは現政権最後の年である2024年の1年のみとなっている。この背景として、ロヘリオ・ラミレス・デ・ラ・オ大蔵公債相は、AMLO政権下で進めてきたマヤ観光鉄道やテワンテペック地峡開発などの大規模インフラ事業を終わらせるための「掉尾の一振(とうびのいっしん)」だとマスコミのインタビューで認めている(9月12日付主要各紙)。
2024年度予算案に対し、エコノミストや経済界からは警戒の声が上がっている。大手金融機関シティバナメックスは9月11日付のレポートで、1989年以来となる4.9%の財政赤字に警戒感を示した。シティバナメックスは2024年の総選挙で有利になるように、大規模インフラ工事を終わらせ、福祉政策を大幅に拡充する内容に見えると批判している。また、拡張的財政政策を通じた景気刺激は中央銀行によるインフレのコントロールを困難にするとも指摘している。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)も9月11日付プレスリリースで、財政赤字の拡大に懸念を表した。COPARMEX は、2024年度借り入れ上限額(広義の財政赤字)が投資予算総額をも超えていることを指摘し、債務を増やして、必要不可欠とはいえない経常支出に充てることを警戒している。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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