エネルギー小売市場の改革案を発表、イノベーション促進で選択肢を拡大へ
(英国)
ロンドン発
2023年08月02日
英国政府は7月24日、エネルギー小売市場の改革案を発表した。改革を通じて、エネルギー市場がネットゼロ達成に貢献できるよう支援するとともに、競争、投資、イノベーションを活性化し、消費者へ安価なエネルギー料金に加えて、多様な選択肢が提供されることを目指す。
市場改革を必要とする背景の1つとして、エネルギー小売市場が少数の事業者による価格競争のみに終始し、顧客の利益に資する商品・サービスの差別化がされていない現状を挙げた。改革を通じて、消費者は個々のニーズに即した幅広い選択肢にアクセスできるようになるとし、対して小売事業者は、総合的な価値提供によって成長し、持続可能な利益水準を確保できるとしている。また、エネルギー需要の平準化や省エネ、低炭素技術採用のためのインセンティブの提供など、ネットゼロ政策に即した新たなアプローチの可能性などより広いメリットがあるとする。政府は、事業者による革新的なサービスの提供の一例として、オクトパスエナジーによる電気自動車(EV)充電を最適化する柔軟な料金表やEV関連サービスのパッケージ提供、リップルエナジーが展開する消費者による風力・太陽光発電所共同所有サービスを挙げた。政府およびガス・電力市場局(Ofgem、エネルギー部門の規制機関)はすでに、複数のプログラムを通じて、資金提供を含めたイノベーション支援を展開している。
また、エネルギー価格に関しては、エネルギー価格上限制度()が、消費者に対して政府がタイムリーな支援を提供するうえで重要な役割を果たしてきたとする一方で、現在のモデルは技術革新や顧客とのエンゲージメントの面で障壁となっており、消費者がよりスマートで柔軟なエネルギーシステムへの移行の恩恵を十分に感じることを妨げる可能性があると指摘。今後の価格上限制度の在り方について協議を進めるとした。
このほか、最も脆弱(ぜいじゃく)な層に対する適切な支援策、適切な消費者保護の枠組み、ネットゼロ達成に向けたエネルギー部門におけるデジタル化の必要性などにも言及されている。今回提示された方向性に基づき、それぞれの検討項目に応じた意見公募などが実施され、2020年代後半にかけて順次、市場改革が進められていく予定。
(菅野真)
(英国)
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