抗議デモが頻発、経済に打撃
(ケニア)
ナイロビ発
2023年07月19日
ケニア全土で政府に対する抗議デモが頻発し、経済や進出日系企業の活動にも大きな影響を及ぼしている。ライラ・オディンガ元首相は2022年8月の大統領選挙に敗れて以降、野党連合を率いて、断続的に選挙結果とウィリアム・ルト大統領の進める増税策に対する抗議行動を起こしてきた。3月下旬には2週間にわたるデモを実施、その後も5月、6月、7月と断続的にデモを全土で展開している。7月19日からは3日間にわたるデモ実施を発表し、その活動は一層活発化している。
現地報道によると、7月12日に行われたデモでは、警官との衝突によって少なくとも7人が死亡し、暴徒によるナイロビ高速道路の破壊行為による損害は7億ケニア・シリング(約6億8,000万円、1ケニア・シリング=約0.98円)に及んだとされる。デモが実施されるたび、市中の店舗の略奪や、デモ隊と警官の衝突などが発生し治安が悪化している。市民の足のバスも運休や限定運航となり、社員の安全確保のため日本企業を含む多くの企業が事実上の休業状態に追い込まれるなど、深刻な経済停滞も招いている。ケニア民間セクター連合(KEPSA)は、一連の抗議行動による経済的機会損失は1日当たり30億ケニア・シリングに及ぶと推計している。
「デーリー・ネーション」紙は7月18日紙面のトップで「もううんざりだ(Enough is enough)」として、ルト大統領とオディンガ元首相の対話による問題解決を呼び掛けた。同日には欧米など13カ国の駐ケニア大使らが連名でデモに対する懸念を表明するレターを発出した。国際社会からもケニアの状況を憂慮する声が高まっている。
ケニアの民間調査会社TIFAリサーチ社が7月13日に発表した世論調査では、ケニアは「正しい方向に進んでいる」とする回答は3月時点と比べて12ポイント減の25%、「誤った方向に進んでいる」は8ポイント増の56%に及んだ。誤った方向の回答のうち79%が生活費上昇など経済面の不満を訴えた。デモが収まらない背景には、現政権の経済政策に対し、必ずしも国民の理解が得られていないこともある。
ケニアのスタンビック銀行が7月5日に発表した6月の製造業PMIは、前月比で再び減少に転じ、1.6ポイント減の47.8となった。ケニア・シリング安とそれに伴うインフレ圧力の高まりから生産、受注ともに減少し、5カ月連続で景気拡大と減速の分岐点となる50を下回った。
7月1日の新年度から実施する予定だった新財政法に基づく増税策は、議会の承認を経て6月26日にルト大統領の署名に至ったものの、6月30日に高等裁判所が差し止めを行い、いまだ発効していない。政治と経済の両面で先行き不透明感が増している。
(佐藤丈治)
(ケニア)
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