政府が初の国家安全保障戦略を策定
(ドイツ)
ベルリン発
2023年06月22日
ドイツ連邦政府は6月14日、国家安全保障戦略を策定した(注)。同戦略は2021年11月に与党3党が合意した連立協定書(2021年11月26日記事参照)に基づいて策定されたもので、ドイツとしては史上初の国家安全保障戦略となる。また今後、同戦略に続き、中国戦略も策定する予定となっている。
欧州と世界におけるドイツ
同戦略では、ドイツの基本的な立ち位置として、基本法(憲法)前文に定める「統合された欧州において世界平和に貢献する」という使命に基づき、自由な国際秩序の形成に貢献するとする。
その上で、安全保障環境は激変、転換期を迎えているとする。具体的には、ロシアについて、欧州・大西洋地域の平和と安全に対する最大の脅威とする。中国については、パートナーであり、競争相手であり、体制上のライバルとした上で、既存のルールに基づく国際秩序を中国が再構築しようとしていることや、経済的強制力の行使などについて触れつつ、競争相手とライバルの要素が近年強まっているとする。一方で、中国はグローバルな課題や危機を解決する上で欠かせないパートナーともしており、中国を巡るドイツ国内の難しい立場が表れている。このほか、紛争やテロ、サイバー攻撃などに加えて、原材料やエネルギー供給などの一方的な依存のリスク、気候変動といった幅広い危機に言及している。
ドイツのための総合的な安全保障戦略
こうした認識を踏まえ、同戦略では安全保障の柱として、「強固な防衛」「レジリエンス」「持続可能性」の3つを掲げる。
第1に「強固な防衛」については、自国や同盟国を防衛するため、NATOとEUにコミットし続けるとし、NATOが提示する対GDP比2%の国防費目標の達成をはじめとして、連邦軍の強化などを行うとする。
第2に「強靭(きょうじん)性(レジリエンス)」については、自由民主主義の基本秩序を外部の違法な介入から守るため、国際的なパートナーとともに自由な国際秩序を支持し、原材料やエネルギー供給などの一方的な依存を軽減するほか、サイバーセキュリティーの強化、宇宙開発能力の拡大などを行うとする。
第3に「持続可能性(サステナビリティー)」については、気候、生物多様性、生態系の危機との闘い、食料安全保障の強化、パンデミックの予防をはじめとして、あらゆる予防に取り組むとする。
なお、争点の1つとされていた司令塔機能を持つ国家安全保障会議の設置については、同戦略には盛り込まなかった。
(注)同時に、ドイツ政府は国家安全保障戦略のウェブサイトも開設、同戦略の要約版も掲載した。
(日原正視)
(ドイツ)
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