欧州自動車工業会、「Euro7」製造の追加コストは欧州委想定の4~10倍と試算
(EU)
ブリュッセル発
2023年05月29日
欧州自動車工業会(ACEA)は5月23日、欧州委員会が2022年11月に発表した次期排ガス規制案「Euro7(ユーロ7)」(2022年11月11日記事参照)に関し、Euro7に適合する車両製造の追加コストは欧州委の想定より4~10倍高いという調査結果を公表した(プレスリリース)。ACEAは、以前からEuro7導入に疑義を唱えてきた(2023年2月20日記事参照)が、調査に基づく具体的な数値を示すことで、コスト面での負担増に改めて懸念を示し、「Euro7はEUの気候中立の実現や大気汚染改善につながる正当な手段ではない」と批判した。
調査はACEAが独立系調査会社のフロンティア・エコノミクスに委託し、自動車業界の専門家の推計に基づくEuro7適合車両の製造コストと、欧州委が影響評価で示した推計値を比較した。欧州委は、Euro7適合車両の1台当たりの製造コストは、現行規則に適合する車両と比較し、ガソリン車の乗用車・小型商用車(バン)は約180ユーロ、ディーゼル車の乗用車・バンは約450ユーロ、トラック・バス(ともにディーゼル車)は約2,800ユーロ増加するとした。しかし、調査の結果、乗用車・バンのガソリン車は約1,800ユーロ、ディーゼル車は約2,600ユーロ、またトラック・バスは約1万2,000ユーロ増加と算出され、いずれも欧州委の想定を大幅に上回った。なお、調査結果は装備や投資といった製造関連コストのみを表し、車両販売価格は製造コスト以上の上昇幅となる可能性を指摘した。
調査では欧州委の影響評価で考慮されなかった燃料費など間接コストの増大に着目し、ACEAはインフレ率や燃料価格が高止まりする中、車両所有者に追加負担を迫るものだと苦言を呈した。例えば、車を冷始動(注)させた時など通常の運転時より多くの燃料を必要とする際、Euro7の排出基準を順守するには、現行規則適合車両より全車種平均で3.5%多く燃料を消費すると試算。これに伴い、車両所有者が保有期間を通して追加で負担する燃料費(1台当たり)は、乗用車は約700ユーロ、長距離トラックは約1万7,500ユーロに上るとした。影響評価は、Euro7が規制対象とするタイヤの摩耗に起因する汚染物質の排出や、バッテリー式電気自動車(BEV)については扱わなかったとも指摘。コスト増で企業が一部モデルを生産中止するなどし、消費者がより高価な車両を選択せざるを得なくなる可能性にも言及した。
(注)エンジンが長い時間停止していた「冷機」状態のまま、車を発進させること。エンジンおよび排ガス浄化装置の作動に必要な触媒を温めるため、より多くの燃量を消費し、汚染物質の排出も増える。
(滝澤祥子)
(EU)
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