バイデン米大統領、東南アジア4カ国からの太陽光製品への関税免除措置を撤廃する決議に拒否権発動
(米国、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム、中国)
ニューヨーク発
2023年05月17日
米国のジョー・バイデン大統領は5月16日、連邦議会が可決した、東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品輸入への関税免除措置を撤廃する両院共同決議(H.J.Res.39)に拒否権を発動した。
本件は、バイデン大統領が2022年6月に、国内での太陽光発電関連製品の供給不足に対して緊急事態を宣言し、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム4カ国からの同製品への関税を2年間免除するとした措置が発端となっている(バイデン米大統領、ブラック)。議会が同措置を撤廃しようと動いた背景には、中国からの安価な製品がアンチダンピング税(AD)・補助金相殺関税(CVD)を迂回する目的で、東南アジア4カ国を通じて米国へ輸入されているとの懸念がある。実際、米国商務省は2022年3月に、議会が懸念するルートでAD・CVDを迂回する輸入が行われているかについての調査を開始し、12月には迂回輸入ありとの予備的判定を下している。商務省は2023年8月に最終判断を下す予定だが、そこで「迂回あり」との判定が出たとしても、2年間の関税免除はそれが満了する2024年6月までは継続するとしている(注1)。しかし、議会では主に共和党議員が中心となり、中国の不公正な貿易慣行に対抗する上では、直ちに関税免除を撤廃すべきだとして共同決議の採択に至った。バイデン政権は可決されても拒否権を発動することを明らかにしていたが、投票結果は下院で賛成221・反対202、上院で賛成56・反対41と、民主党議員も一定数が賛成に回った。
バイデン大統領は声明で、太陽光発電関連製品の供給を中国に依存してきた状況を認めつつ、「インフレ削減法」をはじめとする政権の取り組みで同製品の国内製造能力は増強されつつあると指摘した。一方で、それら全てがすぐに稼働するわけではないとして、2年間の猶予の必要性を説いている(注2)。また、関税免除措置を延長することはないと言明した。大統領の判断に対して、共同決議を提出したビル・ポージー下院議員(共和党、フロリダ州)は、政権は野放しにしているが、米国の通商法に違反したことについて中国の責任を追及すべき、と反発した(政治専門誌「ポリティコ」5月16日)。他方、米国太陽エネルギー産業協会(SEIA)は「(東南アジアからの太陽光発電関連製品の供給体制を維持することになる)大統領の拒否権発動は米国におけるクリーンエネルギーの発展を守り、太陽光発電関連製品の製造に関わる4,000人を含む3万人の国内雇用を失業させる恐れのあった共同決議を葬った」と評価する声明を発表している。
(注1)関税免除措置の詳細を定めた官報によると、免除対象となる製品は2024年6月6日までに米国へ輸入されたもので、同日から180日以内に米国内で消費される必要がある。
(注2)直近の米国の太陽光発電製品を巡る輸入施策は2023年4月3日付地域・分析レポートを参照。
(磯部真一)
(米国、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム、中国)
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