EU、域外国による「経済的威圧」への迅速な対応を可能にする規則案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年04月05日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は3月28日、域外国によるEUに対する「経済的威圧(economic coercion)」への対抗措置の実施を可能にする反威圧手段規則案に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、域外国が貿易や投資に制限を課すことで、EUや加盟国に対して特定の地政学的な政策の実施やその変更を迫る経済的圧力(威圧)をかける場合に、EUが迅速に対抗措置をとることを可能にするものだ。

欧州委員会は提案当初から、規則案の念頭には中国による加盟国に対する措置があると言及。欧州委のフォン・デア・ライエン委員長も、3月30日に行った対中政策に関する演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいて、EUにとって中国との関係は最も複雑かつ重要なものであり、中国とのデカップリングは実行可能でなく、EUの利益にもならないことから、デリスキング(リスク軽減)に注力すべきと強調した。一方で、規則案にも言及し、中国による経済的威圧が増えていることから、状況によっては規則案の積極的な実施も必要だとの見方を示した。規則案は今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行される見込み。

規則案は、欧州委案()の大枠を維持しているものの、焦点となっていた規則案の実施プロセスに関しては、欧州委ではなく、EU理事会が主導することになるとみられる。制裁などのEUの域外政策の実施においては、加盟国の全会一致の賛成が必要であり、実施の迅速性が課題とされている。

そこで、欧州委は自らが対抗措置の実施プロセスを主導できる規定を提案。欧州委による権限強化だとして、一部の加盟国から反発を招いていた。合意テキストが公開されていないことから詳細は不明であるものの、現地報道によると、域外国の措置が経済的威圧に該当するかを判断する権限はEU理事会が持つ。実施する対抗措置の内容を選定する権限は欧州委が持ち、対抗措置の最終的な実施に関しては加盟国の賛成が必要となる。

一方で、EU理事会による経済的威圧の認定や加盟国による対抗措置の実施の判断には全会一致の必要はなく、特定多数決で足りることから、欧州委案よりは対抗措置の実施のハードルは上がるものの、一定の実効性は確保されたとみられる。また、実施プロセスの遅延を防ぐべく、経済的威圧の認定や対抗措置の実施の判断に対する期限も設定された。

経済的威圧に対する対抗措置として実施が認められる措置の内容に関しては、関税の引き上げ、輸入・輸出許可の制限、サービスや公共調達の分野での制限などが含まれる。また、規則案の射程を拡大することで、対抗措置に加えて、経済的威圧による損害に対する賠償請求も可能になる。

(吉沼啓介)

(EU)

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