フランス政府、年金改革案の骨子を発表
(フランス)
パリ発
2023年01月18日
フランスのエリザベット・ボルヌ首相は1月10日、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げることを柱とする年金制度改革案の骨子を発表した。
2023年9月から受給開始年齢を毎年3カ月ずつ引き上げ、2030年に64歳とする。また、満額受給に必要な保険料の拠出期間について、2014年の法律により1955年以降に生まれた者に対し2035年までに41年6カ月から43年に段階的に引き上げることが定められた(上院のメディア「ピュブリック・セナ」)が、前倒しで2027年までに43年に引き上げる。ただし、満額受給に必要な拠出期間を満たさずとも減額措置の適用対象外とする年齢は、現行の67歳以上を維持する。
若い時から就労を開始した労働者は、満額支給に必要な拠出期間を最長44年とする。16歳前に就労した者は58歳から、16歳から18歳前に就労した者は60歳から、18歳から20歳前に就労した者は62歳からの早期退職を認める。
過酷な労働に従事する者の早期退職を可能とするポイント制度「重労働予防個人口座」(過酷労働従事者の早期退職ギャンブル)の対象者へは、職種変更のための研修受講の権利を強化するほか、職業病の予防を産業医による健康診断などにより強化し、労働の継続が困難な場合は62歳で退職可とする。
拠出期間を満たす年金支給の最低保証額を法定最低賃金(SMIC)の85%、月額税込み約1,200ユーロとし、インフレ率に合わせ毎年改定する。4四半期を上限に育児休業期間を拠出期間として算定する。
高齢者の雇用維持を目的に、高齢労働者数を評価する指数制度を導入する。従業員1,000人以上の企業には2023年から指数の公表を義務付け、最終的に従業員300人以上の企業に同義務の適用を拡大する。
優遇措置のある「年金特別制度」が適用されてきたパリ交通公団(RATP)、フランス電力会社(EDF)、フランス銀行(中央銀行)などの新たな就労者には、「年金特別制度」ではなく一般制度を適用する。
エマニュエル・マクロン大統領は受給開始年齢を65歳に引き上げる年金改革を公約に掲げていたが、国民議会(下院)で議席が過半数に満たない与党グループから成る政府は法案採択実現に向け、同年齢を64歳とすることで譲歩した。
年金方針評議会(COR)は、年金制度の財政赤字を2027年に124億ユーロ、2030年に135億ユーロと予測。政府は、改革により2030年には赤字が解消すると試算している。年金改革に関する社会保障財政修正法案は、2023年1月23日に閣議に提出される予定で、第1四半期に国会で審議し、9月施行を目指す。
フランス民主主義労働総同盟(CFDT)のローラン・ベルジェ書記長は「年金に関する過去30年間で最も厳しい改革の1つ」と非難、労働総同盟(CGT)のフィリップ・マルティネス書記長は「同法案を通さないことを決意、議会だけで通るものではない」と述べた。主要な8つの労働組合は、1月19日に年金改革反対のデモとストライキを呼びかけている(1月11日付フランスアンフォ)。
(奥山直子)
(フランス)
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