ブラジルとアルゼンチン、共通通貨はデジタル通貨を検討、ドル依存低減が狙い
(ブラジル、アルゼンチン、メルコスール)
米州課
2023年01月25日
ブラジルとアルゼンチン両国は1月23日、共通の南米通貨に関する議論を進める共同書簡を首脳会談開催前に発表した。共同書簡には、「貿易と金融の流れに使用でき、運用コストと対外的な脆弱(ぜいじゃく)性を削減し得る、共通の南米通貨に関する議論を進めることを決定した」と記述されている。
同日、フェルナンド・アダジ・ブラジル財務相は両国のビジネスイベントで、ユーロのような両国間でレアルとペソの現通貨に代わる単一通貨の導入検討は否定し、商取引のみに使用される共通デジタル通貨の実現可能性を検討していることを明らかにした。 その目的はドルへの依存を減らすためと説明している(現地誌「ベージャ」1月23日)。
英国「フィナンシャル・タイムズ」とブラジル国内各紙が報じたところによると、共通通貨はブラジルからの提案によるもので、呼称は「スル」(スペイン語で南の意味)。国際取引でのドル依存の低減について、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は「メルコスールやBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)での共通通貨創設は時の経過とともに起こる」とコメントした。
メルコスールでは、1991年の設立後に共通通貨構想が度々議論されてきた。前政権ではパウロ・ゲデス・ブラジル経済相(当時)が単一通貨を擁護し、2019年6月にジャイール・ボルソナーロ・ブラジル大統領(当時)とマウリシオ・マクリ・アルゼンチン大統領(当時)との会談で共通通貨「ペソ-レアル」構想が披露されたが実現しなかった。両国の金融政策を統一すれば経済効率が上がり、市場成長が期待できるが、現状の両国の経済不均衡を考慮すると、単一通貨の導入は非常に困難だったためだ。
しかし、今回明らかにされた共通通貨は既存通貨に置き換わるものではなく、共通通貨が併存し、デジタル通貨を検討するもので、従来の構想より導入への敷居が低くなっている。
ルーラ大統領は2022年4月、当時のゲデス経済相が提案した単一通貨創設に関して、ドルへの依存度を減らし経済統合を促進できるとコメントしていた。当時は次期大統領キャンペーンが本格化し、ウクライナ侵攻によりロシアが国際決済システム(SWIFT)から除外され、世界通貨としてのドルの強さが再認識されていた。アダジ財務相と、政権与党の労働者党(PT)と協力関係にあるファトール銀行元代表で現財務省事務次官のガブリエル・ガリポロ氏は、当時から地域の市場間の貿易と金融の流れに利用され、国内で採用できるか否かにかかわらず、各国通貨間で変動相場制となる単一通貨を提唱していた。
(大久保敦)
(ブラジル、アルゼンチン、メルコスール)
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