水不足で海水淡水化などの水対策が重要課題

(モロッコ)

ラバト発

2022年12月22日

モロッコでは、930日以降、入国時に新型コロナウイルスのPCR検査の陰性証明書やワクチンパスの提示が不要となり、往来への制限がなくなった(2022年10月17日記事参照)。政府が発令した緊急衛生事態は継続しているが、市中でマスク姿を見ることはまれになり、新規に飲食店や事務所を開業する様子も見られる。「アフターコロナ」の段階に入ったと言っても過言ではない。

モロッコ高等計画委員会(統計局)は2022年の実質GDP成長率を1.3%(前年は7.9%)、2023年は3.7%と予測している。雨季は冬の時期に当たり、2022年も待望の雨が降り出したところだが、前年はこの時期の降雨量がかなり少なかった。そのため、2022年は農業の不振が早い段階から懸念されており、2021年の第一次産業は15%を超えるプラス成長だったが、2022年はマイナス13.5%と大幅な下落が予想されていた。GDPに占める農業の比率が高いモロッコは、経済成長率が第一次産業の動向に左右されると言われており、2022年もそれを如実に表している。

ロシアのウクライナ侵攻は世界的な食糧価格やエネルギー価格の上昇を招き、市民生活を圧迫している。2022年のインフレ率は4.9%、2023年は0.8%と予測される。このインフレ上昇とともに、2022年に市民生活に影を落としたのが、農業にも影響した水不足問題だ。

政府は1950年代以降、最も水不足に直面しているとし、食料安全保障やエネルギー政策と並ぶ重要課題の1つとして、水不足対策に取り組んでいる。世界銀行によると、2018年のモロッコの降水量は346ミリ(同年の日本の降水量は1,688ミリで日本の約5分の1)だ。20228月末のダムの貯水率は、前年の40.6%から25.9%にまで落ち込んだ。政府は節水を市民に呼びかけ、首都ラバトでも夜間取水制限がかかり、ガソリンスタンドでの洗車が禁止された。

政府の直近の水不足対策は「飲料水供給と灌漑における国家計画(PNAEPI2020-2027)」に沿って実施され、予算総額は1,500億ディルハム(約19,500億円、1ディルハム=約13円)で、ダムや海水淡水化施設、塩水淡水化施設の新設や増設、下水の再生事業を行うなどとしている。地元メディア(L’opinion紙)によると、20基の大型ダム建設が計画されており、2022年中に3基が完成する。また、海水淡水化施設は、地中海沿岸のアル・ホセイマ(Al Hoceima)と大西洋沿岸アガディール近郊のシュトゥカ・アイト・バハ(Chtouka-Ait Baha)地域で操業が開始される。また、人口380万人の商都カサブランカの淡水化施設新設(年間の処理力3億立方メートル)は総工費110億ディルハムで、官民連携(PPP、注)による建設が進められるとしている。

気候変動で以前にも増して水不足に悩まされているモロッコにとって、水は農業や製造業だけでなく、市民生活にとっても重要で、水の安定供給が強く望まれる。小型の高性能塩水淡水化施設など新たな技術提案も求められており、経験や技術を有する日本企業への期待は高い。

(注)PPPは「Public Private Partnership」の略。公的機関と民間企業が連携してインフラ事業などを実施する形態で、ファイナンス面やプロジェクト運営の効率性向上といった便益が期待されている。

(本田雅英)

(モロッコ)

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