米国、232条鉄アルミ関税を違反としたWTO裁定に反発
(米国)
ニューヨーク発
2022年12月12日
米国通商代表部(USTR)は12月9日、米国が2018年3月に発動した1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ製品輸入に対する追加関税(232条関税)をWTO協定違反とした同紛争解決パネルの裁定に対し、「誤った解釈と結論を強く拒絶する」とし、「232条関税を撤廃するつもりはない」との声明を公表した。
232条関税はトランプ前政権時に発動された措置で、現在も、適用除外などの例外措置が認められた一部の国(注)からの輸入を除いて、鉄鋼製品には25%、アルミ製品には10%の追加関税が課されている。一方で、WTO加盟国は原則として、他の加盟国からの輸入に対する関税については一律の最恵国(MFN)税率を課さなければならない。米国の232条関税はこの原則に違反しているとして、中国、ノルウェー、スイス、トルコがWTO紛争解決機関に提訴していた。これに対して米国は、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第21条(安全保障のための例外)の(b)(iii)項で定められた「戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置」に当たり、正当化されると主張していた。しかし、パネルは米国の主張を退け、GATTの同条項の範囲において取られた措置とは言えないと結論づけ、米国にGATT上の義務に整合的な措置を取るよう提言した。
USTRのアダム・ホッジ報道官は「米国は70年以上にわたって、国家安全保障の問題はWTO紛争解決機関で審査できるものではなく、また、WTOは加盟国が安保上の広範囲な脅威に対処する能力に疑念を抱く権限はないという明白で明確な姿勢を維持してきた」として、パネルの判断を厳しく批判した。さらに、WTOは中国をはじめとする国々が鉄鋼分野で過剰供給能力を得ることを止められなかったとし、WTO紛争解決システムを根本的に改革する必要があると主張した。現行のWTO紛争解決システムは二審制となっており、第一審に当たるパネルの裁定に不服がある場合、当事国は第二審に当たる上級委員会に上訴することができる。しかし、米国は以前から、上級委員会が越権行為により加盟国の権利を侵害しているとして、上級委員の選定を阻んでいる。これにより、上級委員会は2019年12月以降、機能停止の状態が続いている(関連ブラック ジャック ゲーム)。米国の鉄鋼関連の業界団体や労働組合もWTOの判断を批判しており、今回の裁定を受けても、バイデン政権が232条関税を撤廃する可能性は極めて低いことは明らかだ。
(注)対象国・地域は次のとおり。
- 鉄鋼の適用除外:オーストラリア、カナダ、メキシコ
- 鉄鋼の数量割当:アルゼンチン、ブラジル、韓国
- アルミの適用除外:オーストラリア、カナダ、メキシコ
- アルミの数量割当:アルゼンチン
- 鉄鋼・アルミの関税割当:EU、英国
- 鉄鋼の関税割当:日本
(磯部真一)
(米国)
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