女性の定年引き上げなどの年金制度改革、国民投票で可決
(スイス)
ジュネーブ発
2022年10月04日
スイスで国民投票が9月25日に実施された。「集約畜産の禁止」に関するイニシアチブ(国民発議、注1)と、「付加価値税(VAT)の引き上げによる年金財源補填(ほてん)」「老齢・遺族年金保険制度改革」「源泉徴収に係る法改正」に関する3つのレファレンダム(注2)の投票が行われた。それぞれ、62.86%で否決(投票率52.27%)、55.07%で可決(52.16%)、50.57%で可決(52.18%)、52.01%で否決(51.7%)された〔連邦参事会(内閣)サイト〕。
否決された1つ目の「集約畜産の禁止」は、家畜の飼育環境改善を目指し、動物愛護団体などが提案した。可決されれば、家畜の屋外へのアクセスや厩舎(きゅうしゃ)ごとの飼育頭数などにより厳しい条件が課され、輸入品にも同様の条件が適用されることから、EUをはじめとする既存の貿易協定やWTOルールとの関係で問題が生じ得るとされていた。連邦参事会(内閣)と議会の右派・中道政党は、既に家畜の保護水準は高く、今回のイニシアチブの可決は食品価格の上昇につながるとして、反対票を投じるよう国民に呼び掛けていた。
可決された2つ目と3つ目は、ともに老齢・遺族年金保険(フランス語:AVS、ドイツ語:AHV、英語:OASI)の改革についてだった。ベビーブーム世代の退職と平均寿命の延びによって年金制度の財源確保が急務となる中、今後10年間の年金財源確保を目的にVATの引き上げ(標準税率:7.7%から8.1%へ、軽減税率:2.5%から2.6%へ)が提案された。主な争点となったのは、年金財源の確保のため、女性の定年を現在の64歳から、男性と同じ65歳に引き上げることだ。男女ともに定年を63~70歳の間で自由に選び、部分的に年金を受給しつつ労働時間を減らすなど柔軟性のある運用も可能にする。女性の定年引き上げを含む年金保険制度改革については、賛成と反対の得票差がわずか3万2,000票余りで、僅差で可決された。賛成票はドイツ語圏で多く、反対票はフランス語圏で多かった。今回の年金制度改革は25年以上にわたる国民投票と議論を経て、初めて実現した。
否決された4つ目は、現在35%が課されている利子収入に対する源泉徴収について、国内で発行された債権への源泉徴収は免除することなどを含めた改正案だった。連邦参事会は、これによってスイス企業だけでなく、外国企業にもスイスで債券を発行することを奨励する目的があった。
(注1)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。
(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。
(深谷薫、マリオ・マルケジニ)
(スイス)
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