英政府、ブラック ジャック web
(英国)
ロンドン発
2022年08月22日
英国政府は8月12日、国内におけるエネルギー集約型産業へのエネルギーコスト面でのさらなる支援について提案、意見公募を開始した。具体的には、企業が負担するエネルギーコストのうち、ネットゼロ移行のための再生可能エネルギー関連賦課金(注1)の免除の水準を上げる方針だ。英国では2017年から、エネルギー集約型企業の再エネ関連賦課金を最大85%免除するスキームが実施されているが、今回はその料率を100%に引き上げ、全額免除とするオプションについて意見を求める。
今回の提案は、英国における産業用電力価格が、欧州を含む他国と比較して高いことを反映して行われた。鉄鋼、製紙、ガラス、セラミック、セメント生産といったエネルギー集約型産業の投資、競争および商業的可能性が妨げられるリスクや、「カーボンリーケージ」(排出制限が緩やかな国への産業の流出)のリスクを懸念したものだ。意見公募の資料では、2015~2021年の英国の産業用電力価格は、キロワット時当たりの単価で、EU14カ国および英国の中央値と比較して80%も高かったことなどが示されている。
英国の製鉄企業団体「UK スチール」のガレス・ステイス事務局長は、今回の政府の発表に対し、「英国の鉄鋼部門に競争力のある電力価格を提供する上で、重要な一歩」と評価した。同団体は2022年7月12日に、政府の2050年までの製鉄における排出量の95%削減という目標に対するレポート「Net Zero Steel:英国の製鉄の将来像」を発表しており、この中で、脱炭素化への手段として電化製鋼、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)、水素の活用を紹介しつつ、実現に向けた課題として現状の高い産業用電力価格を挙げていた。
意見公募の期限は2022年9月16日まで。エネルギー集約型産業に対する支援については、電気料金における間接排出コスト(注2)を補償する制度を3年間延長し、予算を2倍以上に増額することを4月に発表しており、今回の提案が実施されれば、それに続く追加の支援となる。
(注1)再生可能エネルギーを推進するための差額決済契約(Contracts for Difference:CfD)制度、再生可能エネルギー購入義務(Renewables Obligation :RO)制度、固定価格買い取り(Feed-in Tariffs :FIT)制度の費用として、電力会社から消費者に転嫁される料金。エネルギー集約型企業は申請し承認を受けると、同料金の免除を受けることができる。
(注2)発電事業者は、英国排出量取引制度(UK-ETS)における排出枠の購入(2021年7月12日付地域・分析レポート参照)などの環境対策コストを負う。事業者が卸売市場でこれを転嫁することにより、エネルギー集約型企業も電気小売価格の上昇の影響を受ける(間接排出コストが発生する)。
(菅野真)
(英国)
ビジネス短信 584a112eb3e14c2b