米最高裁、連邦政府の温室効果ガス排出規制権限を制限

(米国)

ニューヨーク発

2022年07月01日

米国最高裁は6月30日、連邦政府が発電所に行う温室効果ガス(GHG)排出規制に関して、連邦政府に包括的な規制を行う権限はないと判断PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。バイデン政権は2030年に2005年比GHG排出量半減、2050年GHG排出ネットゼロを目標に掲げており、今回の判断は大きな痛手となる。

発電所のGHG規制に関しては、1970年制定の大気浄化法を根拠に環境保護庁(EPA)が規制を行ってきたが、石炭産業が盛んな保守州や石炭採掘事業者は大気浄化法は当時の大気汚染を防ぐために炭素排出を規制する権限のみであって、石炭使用などエネルギー源選択そのものを規制する包括的権限をEPAに与えていないと反発し、EPAの権限範囲をめぐる議論が長年繰り広げられていた。この点に関し、石炭産業が盛んなウェストバージニア州がEPAを相手取り、EPAに発電所のGHG排出を包括規制する権限があるかどうかが最高裁で今回争われた(2022年3月米国の環境マンスリーレポート参照PDFファイル(0.0B))。

最高裁の判決では、発電所の炭素排出の規制は許容されるとしつつ、化石燃料からクリーンエネルギーへの移行など、発電形式を変更させ得る規制を制定する包括的権限はEPAには現行法ではないと指摘。ジョン・ロバーツ長官は意見書で、こうした規制を行うには議会がより明確に法制度を整備し、政府に具体的権限を与える必要があるとした。

米国では、発電部門からのGHG排出は全体の4分の1を占めることに加え、同じく約4分の1を占める輸送部門が電気自動車(EV)などの電動化により脱炭素化を進める中では、発電部門の脱炭素化はバイデン政権の前述のGHG削減目標を達成する上で非常に重要なファクターとなっており、同政権は2035年の発電部門の脱炭素化を掲げている。今回の最高裁の判断を受けて、ジョー・バイデン大統領は「(先日の人工妊娠中絶判断(関連実写 版 ブラック ジャック)に続く)もう1つの壊滅的な決定だ」と批判しつつ、「今回の判断を精査するとともに、既存の法律の枠組みで国民を大気汚染から保護する方策を検討していく」とのコメントを発表した。

仮に既存の法律の下で対応が厳しいとなった場合、新たな法律制定を議会が行うことになるが、ウクライナ情勢の長期化によって世界的なエネルギー供給逼迫が顕著になり、化石燃料の重要性が相対的に見直される現況下、議会にそうした機運は乏しいと考えられる。また、11月の中間選挙では下院を中心に民主党の苦戦が予想され、化石燃料産業への規制に消極的な共和党が今後優勢となれば、中長期的にも新たな法律制定は困難だ。加えて、現状でも与野党で勢力が拮抗(きっこう)する上院で、ウェストバージニア州選出のジョー・マンチン議員などを中心に化石燃料産業への規制に消極的な議員は与党内にも一定数いる。2021年の米国のGHG排出量は前年比6.2%増と、新型コロナ禍からの経済回復により足元ではむしろ増加傾向にあり(2022年1月17日記事参照)、2022年もウクライナ情勢の影響による化石燃料への回帰が見られる中では、GHGの大幅削減は期待薄だ。今回の最高裁の判断によりバイデン政権のGHG削減目標の達成はさらに難しさを増したと言えそうだ。

(宮野慶太)

(米国)

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