EUがパレスチナ向け援助資金の供与再開

(イスラエル、EU、パレスチナ)

テルアビブ発

2022年06月21日

イスラエルの現地紙「ハアレツ」は6月14日、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が一部凍結されていたEUからパレスチナ自治政府(PA)向けの援助資金(2021年分)を供与することを発表したと報じた。

3月15日付「ハアレツ」によると、PA向け援助資金が一部凍結されていた背景は、欧州委のオリベル・バルヘリEU拡大担当委員(ハンガリー)がパレスチナ自治区内で使用されている教科書に、反ユダヤ主義や扇動的な表現があるとして援助資金の凍結を提言し、2021年4月に欧州委がこれを承認したためとされる。

在パレスチナEU代表部の発表(6月14日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、今回供与が決定された援助資金は総額2億2,480万ユーロで、既に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)向けに供与されている9,200万ユーロと合わせると、2021年分のEUからパレスチナ自治区への援助資金は3億1,680万ユーロに上る。

このうち1億4,535万ユーロは、PAの公務員給与や年金支給、低所得家庭への社会保障給付などに支出される。また、5,000万ユーロがロシアのウクライナ侵攻の影響による急激な食糧や日用品などの物価上昇を緩和する措置に割り当てられる。

さらに、パレスチナ自治区の持続可能な経済発展と援助資金への依存を解消することを目的として、3,050万ユーロが民間セクター開発に割り当てられる。この取り組みでは、パレスチナ経済の包括的な成長とデジタル化の促進、貿易とイノベーションの多様化を通じた経済の活性化を目指すとしており、同時にガザ地区の中小零細企業支援と経済インフラの復興も視野に入れるとする。

パレスチナ経済では、対外輸出総額14億5,840万ドルのうち、イスラエル向けが12億9,630万ドルと全体の90%近くを占める(2021年:パレスチナ中央統計局)。このため、輸出先の多角化を図ることも支援の狙いの1つとみられる。

イノベーション分野では、ラマッラーにイノベーションハブ「フィクラ(Fikra)」が設立されたほか、人工知能(AI)やブロックチェーン技術を活用したスタートアップ「データブロック(datablock)」が起業するなど、ハイテク産業の萌芽も出つつある。EUの支援も活用した今後のパレスチナの動向が注目される。

(吉田暢)

(イスラエル、EU、パレスチナ)

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