国民投票で動画配信事業者にスイス映画製作への投資義務付ける法改正が可決
(スイス)
ジュネーブ発
2022年06月01日
スイスで国民投票が5月15日に実施された。「動画配信サービス事業者の投資義務」「臓器移植制度の変更」「欧州国境沿岸警備機関(Frontex、注1)への拠出金増額」に関する3つのレファレンダム(注2)で、それぞれ、58.42%(投票率40.03%)、60.2%(同40.26%)、71.48%(同39.98%)で可決された〔連邦参事会(内閣)サイト〕。
1つ目は、映画の文化・製作に関する連邦法の改正に関するもの。スイスのテレビ局は売り上げの4%をスイス映画の製作のために投資する義務がある。改正法は、動画配信サービスの事業者にも同様の義務を課し、配信作品の30%を欧州で製作されたものにすることも義務付ける。レファレンダムを提起した委員会は、欧州以外で製作された人気作品を視聴する消費者の自由が奪われることは不当などと訴えていた。一方で、連邦参事会と議会は、スイス映画の製作に年間1,800万スイス・フラン(約23億9,400万円、CHF、1CHF=約133円)の追加資金が提供され、市場の活性化が期待できるとして、賛成票を投じるよう訴えていた。
2つ目は、臓器提供に関する連邦法改正に関するもの。スイスでは生前に臓器提供の意思表示をしていた場合にのみ、臓器提供を行う「オプトイン」制度を採用してきた。連邦参事会は2013年から臓器提供数を増やす行動計画を展開してきたが、いまだに需要が供給を大きく上回っており、2021年末時点で1,434人が移植を待機している。2019年に生前に臓器提供に反対していない限り臓器提供を行う「オプトアウト」に制度を変更するイニシアチブ(注3)が成立。連邦参事会と議会は「オプトアウト」には賛成しつつ、遺志が極力正しく反映されるよう、故人が意思を示さなかった場合でも、反対意思を持っていたと家族が把握もしくは推測する場合には臓器提供は行わない対案を出していた。投票後の記者会見で、アラン・ベルセ内務相は、世論調査の結果により可決は予測されていたと述べた。また、法改正によって臓器提供数の増加が期待され、家族の意思も反映可能になると説明した。
3つ目は、Frontexへの拠出金増に関するもの。2015年の欧州移民危機以降、移民が増えていることを受け、EUはFrontexの体制を資金面・人員面で強化する改革を2019年末から開始した。これに伴い、シェンゲン協定に加盟するスイスの拠出金も2021年の2,400万CHFから2027年に6,100万CHFに増額される。レファレンダムは、拠出金を増額し、Frontexへの関与を強めることの是非を問うものだった。レファレンダムを提起した委員会は、Frontexの活動は難民の権利を迫害する場合があると訴えた。一方で、連邦参事会と議会は、スイスが改革に参加しない場合、シェンゲン協定とダブリン協定からの脱退を余儀なくされるリスクがあるとして、賛成票を投じるよう呼びかけていた。
(注1)シェンゲン圏の対外国境管理や警備を行う欧州連合の専門機関の1つ。
(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。
(注3)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。
(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)
(スイス)
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