欧州委、外国人労働者の転職や域内移住の簡易化を提案
(EU)
ブリュッセル発
2022年05月06日
欧州委員会は4月27日、EU域外から域内により多くのスキルや才能を持った人材を引きつけるための政策文書を発表(プレスリリース)した。域内では、高齢化と労働人口の減少が進んでおり、新型コロナウイルス感染拡大による停滞から経済活動の再開が本格化する中で、観光や接客、IT、医療、物流などの分野では構造的な労働者不足が指摘されている。欧州委はこうした課題に対して、EU域内の労働者の活用だけでは限界があり、EUが世界的な競争力を維持するには、域外から才能を持った労働者を引きつける必要があるとしている。EUには既にこうした労働者を呼び込むための法的枠組みとして「単一許可指令(2011/98/EU)」と「長期居住者指令(2003/109/EC)」などがあるが、既存の法的枠組みではその目的を十分に果たしていないとして、欧州委はこれらの指令の改正案をそれぞれ提案した。
単一許可指令は、EU加盟国以外の国籍者が就労目的で域外からEU加盟国に移住する際の申請手続きを簡略化するために、滞在許可と労働許可を合わせた単一許可の申請手続きを導入するEU法だ。単一許可の保持者に対しては、労働条件や社会保障へのアクセスなどの点でEU加盟国国籍者との平等な扱いを受ける権利を保障している。
単一許可指令の改正案は、この申請手続きをより迅速かつ容易にするもので、まず、域外国からだけでなく、申請者が申請先となる加盟国に合法的に滞在している場合は、当該加盟国内からも単一許可の申請を行うことができる。また、現行法でも申請の審査期間として4カ月の期限が設定されているが、現状ではこの規定にもかかわらず、申請手続きの長期化が問題視されている。そこで改正案では、この期限には申請者の雇用がEU加盟国国籍者の雇用の代替となっていないことを確認する労働市場テストの実施期間やビザの発給期間も含まれるとすることで、期限の解釈をより明確にした。そのほかに、単一許可の保持者の権利も強化し、単一許可の有効期限内であれば、発給時の雇用主以外への転職も認める。さらに、不平等な取り扱いに関する苦情申し立て制度と違反した雇用主に対する罰則規定も設ける。
長期居住者指令は、同一の加盟国内に合法的かつ継続的に5年以上居住したEU加盟国以外の国籍者に対して付与される「EU長期居住者資格」の取得要件などを規定するEU法だ。これは、資格を取得した加盟国での永住資格であり、就労目的での他の加盟国への移住も一定の条件の下で認められる。
長期居住者指令の改正案は、この資格の取得要件や就労目的での他の加盟国への移住条件を緩和するもの。現行法では、5年間の居住要件は同一の加盟国で満たす必要があるが、改正案では、申請先となる加盟国での2年間の居住歴があることを条件に、異なる加盟国での居住歴を合算することを認める。また、合算の対象となる滞在資格として、学生や難民以外の被保護者、季節労働者なども新たに認められる。また、就労目的での他の加盟国への移住に当たっては、労働市場テストや受け入れ人数の制限も撤廃する。また、有資格者の家族の権利も強化する。
改正案はともに、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。
(吉沼啓介)
(EU)
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