米FRB金融安定報告書、金融市場の短期的な流動性逼迫を警告
(米国)
ニューヨーク発
2022年05月11日
米国連邦準備制度理事会(FRB)は5月9日、半期金融安定報告書を公表し、高インフレや金利の急上昇によって、短期的に金融市場の流動性が悪化していると指摘した。報告書では「最近の流動性の悪化は過去の幾つかの事例ほど極端ではないものの、状況が突然急激に悪化するリスクは通常よりも高い」として警鐘を鳴らしている。
実際に株式市場では、高インフレやFRBによる金融引き締め姿勢から景気減速が懸念されており、ダウ・ジョーンズ工業株価平均は年初から約12%、ハイテク企業が多いナスダック総合株価指数は約27%、それぞれ低下している(2022年5月9日時点、添付資料図1、2参照)。
報告書は住宅市場について「特にショックに対して脆弱(ぜいじゃく)」「住宅価格は急激なペースで上がり続けた」と指摘しており、急激な金利上昇に伴って住宅市場が今後失速する可能性を示唆している。ニューヨーク連邦準備銀行によると、2022年第1四半期(1~3月)の住宅ローン組成額は前期比17%減、3期連続の減少となっている。エネルギーや食品など商品市場については、ロシアのウクライナ侵攻によって大きな価格変動が起こっており、これらの取引を行っている金融機関も影響を受ける可能性があるとしている。
国外要因として、中国の不動産市場の減速に言及。中国では不動産向け貸し出し(債権)が銀行全体の資本の過半に達しており、その市場が冷え込んだ場合、新型コロナウイルス対策のロックダウンなどの影響も相まって、中国の金融システムが棄損する可能性があるとし、米国も貿易を通じて影響を受ける可能性が大きいとした。欧州については、ロシア向け債権を多く保有する欧州の銀行は「特に影響を受ける」と指摘。米国銀行はロシアやウクライナ向けの債権残高は多くなく、直接的な影響は大きくないが、影響を受けた欧州の銀行が米国企業への融資を引き上げるリスクがあるとした。
景気の減速懸念が強くなってきている米国経済だが、FRBは高インフレ抑制を優先して、政策金利の大幅引き上げや保有資産の縮小開始を先日決定している(米FRB、政策金利を通常の倍の0.ブラック)。急激な金融引き締めに現下の米国経済が耐えられるか、懸念が高まってきているが、報告書をまとめたラエル・ブレイナードFRB副議長は「家計や企業の債務の対GDP比率が減少しており、債務負担を手当てする資金も(バランスシート上で)存在するように見えることは注目すべきであり、これは金利上昇局面で十分な底堅さがあることを示す」として、家計や企業のバランスシートの健全性に自信を示した。
(宮野慶太)
(米国)
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