ドイツ経済諮問委員会、2022年経済成長率予測を下方修正、ロシアの軍事侵攻がリスク
(ドイツ、ウクライナ、ロシア)
ベルリン発
2022年04月05日
ドイツ政府の経済諮問委員会(通称「五賢人委員会」)は3月30日、経済予測を発表した。同国の2022年の実質GDP成長率は1.8%と、前回予測(2021年11月)の4.6%から2.8ポイント下方修正した。2023年は3.6%と予測している。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年第4四半期(10~12月)の水準に回復するのは2022年第3四半期(7~9月)と見込んでいる。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻前までは、鉱工業生産の増加と堅調な労働市場は景気が回復していることを示していた。しかし、軍事侵攻後にドイツの経済見通しは急激に悪化した。アヒム・トルーガー委員は「軍事侵攻により、新型コロナウイルス感染拡大で逼迫していたサプライチェーンの混乱はさらに悪化。同時に、天然ガスや原油の価格高騰が企業や個人消費に多大な影響を与えている」と指摘。一方で、他人と接触する対面型サービスの消費は2022年夏にさらに回復し、経済成長に寄与するとしている。
経済諮問委員会は、インフレ率は2022年に6.1%へ上昇し、2023年には3.4%に低下すると予測する。上昇の要因は、燃料価格の高騰と企業によるエネルギーコスト上昇分の顧客への価格転嫁の長期化だ。ベロニカ・グリム委員は「インフレ率の高止まりとインフレ率の上昇予想は、賃金交渉に影響を及ぼす可能性が高い。2022年後半から賃上げ要求の動きが強くなり、賃金・物価スパイラルのリスクが高まる」との見方を示した。名目賃金上昇率は2022年に2.5%、2023年には4.4%と予測している。
モニカ・シュニッツァー委員は「ロシアからのエネルギー供給停止は、景気後退と高インフレというリスクをもたらす」と警告した。フォルカー・ビーラント委員も「ドイツは、ロシアからのエネルギー供給停止に備え、直ちにあらゆる手段を講じ、ロシア依存を速やかに終了する必要がある」と要求。長期的には、再生可能エネルギーの拡大や資源調達先の多様化などによって、より高度なエネルギー安全保障を確保することを目指すべきだと提言した。
ドイツ産業連盟(BDI)のヨアヒム・ラング事務局長は同日、経済諮問委員会の発表に対するコメントを発表した。「ドイツ産業界は、エネルギー価格の高騰やロシアからのエネルギー原料の輸入停止により、企業が存続の危機に陥ることを危険視している」と指摘。天然ガスや電力のコスト増により生産縮小に追い込まれているエネルギー集約型企業などに対する支援策や、電力料金の高騰対策として電力料金の中の送電網の利用料金を引き下げ、ロシアでの収用などによる損失やウクライナ情勢の影響による損失への税制上の支援策などを政府に求めた。
(中村容子、ヴェンケ・リンダート)
(ドイツ、ウクライナ、ロシア)
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