価格高騰の影響を踏まえ「エネルギー安全保障戦略」を発表
(英国)
ロンドン発
2022年04月13日
英国政府は4月6日、新型コロナウイルス感染拡大後のエネルギー需要増とロシアによるウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー価格高騰を受け、新たな「エネルギー安全保障戦略」を発表した(添付資料表参照)。
同戦略は、国際市況により英国がコントロールできないガス価格の変動に左右される化石燃料から脱却し、長期的なエネルギー安全保障強化に向け多様な国産エネルギー源を増強する取り組みの中心をなす。なお、同戦略は、政府がこれまで発表した「グリーン産業革命のための10項目の計画」()、「ネットゼロ戦略」(英政府、ブラック ジャック ブラック)に基づいており、短期的に石油とガスの国内生産を支援しながら、風力、原子力、太陽光、水素の導入を加速し、2030年までに電力の95%の低炭素化を実現するとしている。
同戦略を項目別にみると、原子力発電では、既存の6カ所の原子力発電所のうち、今後10年以内に5カ所が稼働停止となることに触れ、2030年までに最大8基の原子炉を新設し、2050年までに現在の3倍超となる最大24ギガワット(GW)の出力を整備、電力需要の最大約25%を賄うことを目指す。さらに他国と協力し、小型モジュール炉(SMR)などの先進的な原子力技術の開発を加速させる。
再生可能エネルギーでは、洋上風力につき、2030年までに最大50GW(うち浮体式は最大5GW)に目標を引き上げ、太陽光発電は、2035年までに現在の14GWの5倍となる最大70GWへ拡大させることを目指すとした。一方、陸上風力については、安価なエネルギー料金と引き換えに、陸上風力の設置を支持する地域と協議するとし、具体的な導入目標値は示さなかった。
水素では、2030年までに低炭素水素の製造能力目標値を10GWに引き上げ。うち半分はグリーン水素とした。
また、石油とガスでは、2022年秋に北海の石油とガスの新規プロジェクトのための新たなライセンス付与を計画中で、ロシアからの石油と石炭の輸入を2022年末までに、液化天然ガス(LNG)はその後できるだけ早く輸入を停止するとした。
一方で、現地報道では、同戦略について長期的な目標を示したもので、短期的なエネルギー価格高騰の対応策となっていない、との批判も出ている。
将来のエネルギー技術への支援も発表
政府は4月8日、水素、原子力、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)の技術開発に向け、3億7,500万ポンド(約615億円、1ポンド=約164円)の資金を提供することを発表した。うち、低炭素水素生産プロジェクトに2億4,000万ポンド、電解プロジェクトに1億ポンド、産業用の水素利用の促進に2,600万ポンド、また次世代の原子力技術開発に250万ポンド、CO2回収の研究に500万ポンドを支援することなどが含まれている。
(宮口祐貴)
(英国)
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