カナダの2022年度連邦予算、住宅やイノベーション、気候変動対策に焦点
(カナダ、ウクライナ)
トロント発
2022年04月12日
カナダのクリスティア・フリーランド副首相兼財務相は4月7日、「経済を発展させ、生活をより豊かにする計画」と題した2022年度(2022年4月~2023年3月)連邦予算案を下院議会に上程した。フリーランド副首相兼財務相は、予算案の目的について「経済を成長させ、優れた雇用を創出し、誰も取り残されないカナダを築くことだ」と説明した。
予算案では、歳入は前年度比3.5%増の4,084億カナダ・ドル(約40兆232億円、Cドル、1Cドル=約98円)、歳出は9.2%減の4,523億Cドルを見込む(添付資料表参照)。財政収支は528億Cドルの赤字と、前年度の1,138億Cドルの赤字に比べ半減する見通しだ。収支は2026年度までに84億Cドルの赤字(GDP比0.3%)へ縮小し、債務残高も2021年度末のGDP比46.5%(1兆1,608億Cドル)から、2026年度末には同41.5%(1兆3,084億Cドル)への減少を見込む。
フリーランド副首相兼財務相は、国内の雇用が新型コロナウイルス感染拡大前の112%にまで回復し、失業率は5.5%と過去50年間で最低だった2019年の5.4%に近づいていること、実質GDPも新型コロナウイルス感染拡大前の水準を1.2ポイント上回っていることを例に挙げ、「経済が回復しただけでなく活況を呈している」として、「新型コロナ対応には多大な費用がかかったが、政府の支出能力は無限ではない。政府支出を見直し、削減する。それが責任ある行動だ」と説明し、債務残高のGDP比を低下させる決意を明らかにした。
景気刺激策は、前年度予算案での1,014億Cドルに比べると小規模になるものの、今回の予算案でも、新たに2027年度までの6年間で562億Cドルの措置が盛り込まれた。第1の柱は住宅対策で、供給不足による住宅価格の高騰に対処するための各種施策が発表された。例えば、2027年度までの6年間で101億Cドルを投じて、今後5年間で10万戸の新規住宅建設を目標とする新たな「住宅加速基金」を立ち上げるほか、非課税の住宅貯蓄口座の導入、さらには初回住宅購入者向け税額控除の倍増による住宅購入の支援策などが盛り込まれた。また、オフショア資金の流入により大都市圏の住宅価格が上昇したことから、外国人によるカナダでの非レクリエーション用の住宅用不動産購入を2年間禁止することも発表された。
第2の柱は経済成長とイノベーションへの取り組みで、2050年までのネット・ゼロ経済構築に向けて、5年間で150億Cドルの拠出による「カナダ成長基金」を設立し、数百億Cドルの民間資本を呼び込むことを目標とするほか、研究を商業化しようとする企業に融資する権限を持つ「イノベーション投資庁」の発足も発表された。
第3の柱は気候変動対策で、ゼロエミッション車を安価に提供し、充電スタンドの全国ネットワークを構築するため30億Cドル以上を投じることなどが盛り込まれた。
加えて、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、「国防の強化」に2027年までの5年間で72億Cドル、ウクライナへの支援に9億4,000万Cドルを投じることも発表された。
他方、歳入面では、銀行や生命保険会社を対象に「カナダ復興配当」として5年間限定で新たに課税するとともに、一定の課税所得基準を超える法人の所得税率を恒久的に引き上げることなどの各種の課税措置により161億Cドルの税収を見込んでいる。
予算案の発表を受けて、カナダ商工会議所(CCC)のペリン・ビーティー会頭兼最高経営責任者(CEO)は、ネット・ゼロ経済移行への各種措置が講じられたことなどに歓迎の意を示したものの、「新型コロナ禍」における政府支援プログラムを利用した企業の債務救済が盛り込まれなかったことなどを例に挙げ、「予算案については評価できる点とできない点がある」としたうえで、「政府は2022年度予算で野心的なアジェンダを打ち出した。今後は、提案された施策が経済成長を支えるかたちで実施されるよう、企業との協働が不可欠となる」「政府がカナダ企業を問題視するのではなく、パートナーとして捉えることがこれほど重要な時代はない」とコメントした(4月7日付プレスリリース)。
(飯田洋子)
(カナダ、ウクライナ)
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