欧州医薬品庁、EU加盟国の新型コロナ治療薬モルヌピラビルの緊急使用に関する意見発表
(EU)
ブリュッセル発
2021年11月24日
EUの医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)は11月19日、米国製薬大手メルクと米リッジバック・バイオセラピューティクスが開発した「モルヌピラビル」に関して、新型コロナウイルス感染症の治療を目的として使用する際のEU加盟国向けの助言となる意見を発表(プレスリリース)した。EMAによると、モルヌピラビルは、新型コロナウイルスの感染初期で酸素吸入の必要はないが重症化リスクが高まっている成人患者(妊娠中や妊娠の可能性のある女性を除く)を対象に使用することができる。
今回の意見は、EUによる正式な販売承認前に、EMAの助言によって加盟国による緊急使用などの決定を支援するものだ。モルヌピラビルは、現時点ではEUレベルの販売承認は受けておらず、販売承認申請の前段階となる逐次審査(ローリングレビュー)が行われている段階にある。しかし、EMAが今回の意見を出したことから、各加盟国は必要に応じて、緊急使用などの判断をするとみられる。新型コロナウイルスの新規感染者数や死亡者数がEU全域で増加傾向にあることから、服用が容易な経口薬のモルヌピラビルの各加盟国での活用が期待される。
短期間で完了する審査手続き活用、加盟国による早期使用を後押し
欧州委員会は新型コロナウイルス対策として、ワクチン接種の推進だけでなく、治療薬の早期承認を目指しているが(2021年10月27日記事参照)、現在のところ正式な販売承認を受けた治療薬は3件にとどまっている(欧州委、ロナプリーブなど新型コロナ治療薬2件を販売ブラック)。販売承認までには、早期承認を目的として臨床試験段階からデータ提供を受ける逐次審査を活用した場合でも、審査に一定の期間を要することから、こうした審査プロセスと並行して、比較的短期間で結論を出せる、EMAによる意見発出が行われている。同意見は、EMAの設立に関する規則(EU規則726/2004)の第5条(3)に定められた手続きに基づいて出ている。
加盟国レベルでの早期使用に向けて、既にEMAが意見を発表している治療薬は以下のとおり。
- メルクとリッジバック・バイオセラピューティクスの「モルヌピラビル」:逐次審査中
- 米製薬大手イーライリリーの「バムラニビマブ/エテセビマブの併用療法」:逐次審査の自主的な取り下げにより未承認のまま審査終了
- スイス製薬大手ロシュと米製薬大手リジェネロンの「ロナプリーブ」(カシリビマブ/イムデビマブの併用療法):販売承認済み
- ステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」
- 韓国製薬大手セルトリオンの「レグダンビマブ」:販売承認済み
- 英国製薬大手グラクソ・スミスクラインと米ビール・バイオテクノロジーの「ソトロビマブ」:販売承認申請中
また、EMAは同じく19日に、米製薬大手ファイザーが開発した経口抗ウイルス薬「パクスロビド」(PF-07321332/リトナビルの併用療法)についても、第5条(3)の手続きに基づく審査を開始したと発表(プレスリリース)している。
(吉沼啓介)
(EU)
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