モリソン首相、2050年までにネットゼロを目指すと発表

(オーストラリア)

シドニー発

2021年10月27日

オーストラリアのスコット・モリソン首相は10月26日、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロを目指す計画を発表した。既存の産業や雇用を維持するとともに、地方の発展を支援し、石炭やガスの生産を停止することなく、ネットゼロを実現する「オーストラリアン・ウェイ」を追求するとした。

オーストラリアはパリ協定の下、2030年までに排出量を2005年比で26~28%削減するとの目標を定めているが、連邦政府はこれまで、カーボンニュートラル達成に向けた具体的な目標については正式にコミットしていなかった。一方、全ての州・準州政府が2050年までに排出実質ゼロを目指す方針を既に打ち出しており、産業界からも具体的な目標の設定を求める声が高まっていた。そうした中、モリソン首相は、英国グラスゴーで開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)への出席に先立ち、連立政権を組む国民党との交渉を経て今回の発表に至った。国民党は農業や鉱業が盛んな地方に支持基盤を持ち、気候変動対策に消極的だった。

今回発表した長期排出削減計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、課税などで国民や企業に負担を強いるのではなく、低排出技術への投資によって排出削減を目指すとするモリソン政権のこれまでの方針に沿った原則が示された。なお、目標は法制化せず、計画の進捗状況は5年ごとに見直すとした。

低排出技術への投資に当たっては、「技術投資ロードマップ」で示した水素などの5つの優先分野(2020年9月25日記事参照)に今後10年間で200億オーストラリア・ドル(約1兆7,200億円、豪ドル、1豪ドル=約86円)を投資することによって、800億豪ドル以上の公共投資や民間投資を呼び込むことができるとの見通しを示した。また、優先分野に「超低コストの太陽光発電」を追加し、1メガワット時(MWh)当たり15豪ドル未満とする数値目標を設定した。計画では、これらの技術開発などによって計85%の排出削減を見込んでおり、残り15%は将来の技術革新によって達成されるとした。

なお、オーストラリアは既に2005年比で20%以上の排出削減を達成しており、最新の予測では2030年までに30~35%削減できる見込みだが、モリソン首相は2030年の削減目標は引き上げないとしている。

(住裕美)

(オーストラリア)

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