国民投票で高所得層への増税案は否決、同性婚合法化案は可決
(スイス)
ジュネーブ発
2021年10月04日
スイスで国民投票が9月26日に実施された。「高所得層への増税」に関するイニシアチブ(国民発議、注1)と、「同性婚の合法化」に関するレファレンダム(注2)の投票が行われた。「高所得層への増税」については反対64.88%で否決(投票率52.23%)、「同性婚の合法化」は賛成64.10%で可決された(投票率52.60%)。
1つ目の「高所得層への増税」に関するイニシアチブは、課税方法と資本の再配分を平等にすることを目的に、資本所得(注3)が一定額を超えた場合は、超えた部分の額を1.5倍に換算して課税することを提案していた。「一定額」の具体的な金額については、イニシアチブが可決された場合に議会で決定することになっていた。増税によって発生した増収は、低・中所得者への減税や社会福祉事業に充てることになっていた。社会民主党をはじめとする左派の政党やスイス労働総同盟(SGB)がこの提案を支持したが、エコノミースイスをはじめとする大多数の経済団体や右派政党は反対した。連邦参事会(内閣)も、スイスの税制は既に高所得層が多額の税金を支払う構成になっており、イニシアチブの内容は税収を支えている高所得層のスイス離れを引き起こしかねないことと、増税されると貯蓄へのインセンティブが低下し、その結果、新規ビジネスや既存事業への投資が鈍化するなどの理由から、反対票を投じるよう国民に呼びかけていた。連邦税務局によると、スイスでは上位1%の高所得層が連邦直接税の約40.5%を支払っている。
2つ目の「同性婚の合法化」のレファレンダムは、これまでスイスでは同性婚はできず、民法上の同性カップルのパートナーシップ制度では帰化、養子縁組、生殖医療の利用が認められないなど、結婚では可能な権利が認められていなかった。国民党や保守系の団体が反対したものの、国民党を除く全ての政党、連邦参事会、議会は賛成票を投じるよう国民に呼びかけていた。開票後、カリン・ズッター・ケラー法務・警察相は、国民の多数の同意を得て同性婚が合法化されたことに満足していると述べ、同性婚を認める改正後の法律は2022年夏に発効する予定だとした。
(注1)イニシアチブは、有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。
(注2)レファレンダムは、議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。
(注3)連邦政府は、税法での明確な定義はないものの、例えば、利息や賃金収入、配当、有価証券・建物の売却益などが含まれると説明。
(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)
(スイス)
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