労働力不足が食品・飲料業界のサプライチェーン寸断、業界団体は政府に対策要求
(英国)
ロンドン発
2021年09月03日
英国では、EU離脱(ブレグジット)後の移民制限や、新型コロナウイルス感染症による規制と自主隔離などが原因で、トラック運転手や食品加工業者の労働力不足が深刻化している。
英国食肉加工業者協会(bmpa)、英国食品飲料連盟(fdf)、英国農業者連盟(NFU)、道路輸送業協会(RHA)を含む計12の食品・飲食・運輸関連の主要業界団体は8月27日、食品・飲料業界のサプライチェーン全体に関わる労働力不足を緩和するために、共同で作成した報告書を政府に提出したことを発表した。
報告書は、食品・飲料業界に対して7~8月に実施した調査の結果として、73社の回答に基づく概算で同業界全体では50万人以上の人員が不足しているとの推定値を示した。報告書はその上で、食品供給の継続性、品質、選択肢を短中期的に確保するために、政府は以下のような対策を実行し、労働力不足克服を支援すべきと提言している。
- 労働力不足への短期的な対応として、サプライチェーン全体の関係者が重量物車両(HGV)運転手など重要な役割を担う人材を確保できるよう、1年間の短期ビザ(Covid-19 Recovery Visa)を導入。
- 業界の労働力ニーズを満たす柔軟性と規模を確保するため、農業部門の季節労働者向けビザ制度を恒久的に改定・拡大。
- EUとの人の移動の自由が廃止されたことによる食品・農業分野への影響について、移民助言委員会(MAC)による評価を早急に実施。
物流業界団体のロジスティクスUKと英国小売業協会(BRC)も8月22日、HGVの継続的な運転手不足が両業界の事業者に影響を及ぼしているとし、ビジネス・エネルギー・産業戦略省に対して連名の書簡で問題解消を要求。両団体によると、現在不足している運転手は全国で約9万人。新型コロナ感染拡大の影響で運転手の養成や運転免許試験が1年以上も中断したことや、ブレグジットの移行期間終了によってEU出身の運転手が推定1万4,000人も帰国したことがさらに状況を悪化させたとしている。両団体は政府に対して、運転免許試験の処理能力の拡大や、EUのHGV運転手への一時的な就労ビザ発給を行わないとした決定の見直し、国家技能基金の改革による運転手の養成・採用の支援を行うことを提言している。
これらのサプライチェーンの問題により、ファストフードをはじめとしたレストラン業界などで、一部メニューの提供停止や店舗閉鎖などの影響が顕著になっていると複数のメディアが報道している。スーパーマーケットなど小売業や食品・飲料製造業の複数企業は、クリスマス期にはさらに混乱が拡大すると政府に警告し、対策を強く要請している。
(宮口祐貴)
(英国)
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