ハイパーブラックジャック、大統領は撤退判断を堅持
(米国、アフガニスタン)
ニューヨーク発
2021年08月17日
アフガニスタンの首都カブールが8月15日、タリバンに占拠されたことを受け、野党・共和党や主要メディア、有識者からバイデン政権への批判が高まっている。ジョー・バイデン米国大統領は16日夕方に会見を行い、撤退判断の正当性を強調した。
米国は、2001年9月に発生した同時多発テロ事件を受けて同年10月にアフガニスタンに侵攻を開始して以来、20年にわたり軍を駐留させてきた。バイデン大統領は2021年4月14日、トランプ前政権が2020年2月にタリバンと交わした米軍の完全撤退を含む和平合意に基づき、アフガニスタンからの最終的な米軍撤退を2021年5月1日から開始し、9月11日までに完了するとしていた。
しかしタリバンは、米軍の撤退開始後も、国内主要都市の制圧を進めていた。そうした事態を受けて、バイデン大統領は8月14日、米国および同盟国の人員らが安全にアフガニスタンを出国できるよう約6,000人の米兵を派遣すると発表していた。その翌日に、カブールが制圧されたことになる。米国務省は15日夜、日本を含む同盟・友好国など約60カ国と共同声明を出し、外国人とアフガニスタン人が安全に出国できるよう支援を表明するとともに、「アフガニスタン全土において力と権限を持つ者」に対して、人命や財産の保護と治安と社会秩序の速やかな回復に責任を持つよう呼び掛けた。カブールの空港には出国希望者が殺到しており、事故による死者も出ているとされる。
バイデン政権には、国内各方面から批判が高まっている。ドナルド・トランプ前大統領は今回の事態を受けて、バイデン大統領は辞任すべきだとの声明を出した。また、下院共和党トップのケビン・マッカーシー議員(カリフォルニア州)は、政権の政策運営を調査すべきとの考えを示唆している(政治専門誌「パンチボウル」8月16日)。さらに、一部の民主党議員も、前政権の判断と合わせて苦言を呈している。アフガニスタンに従軍経験のあるカイアリ・カヘレ下院議員(ハワイ州)は「前政権と現政権による判断は米国を悲惨な状況に追いやった」との声明を出した。外交・安全保障に詳しい「ニューヨーク・タイムズ」紙のデビッド・サンガー氏によると、バイデン大統領に近しい人物でも、撤退の実行の際に大統領が一連の失敗を犯したことを認めているという。その上での問題は、今回の件が政治的にどれほど打撃となるかだと述べている(同紙電子版8月16日)。
現地での今後の懸念について、トランプ前政権の国家安全保障会議で南・中央アジアを統括していたリサ・カーティス氏は「タリバンが1990年代と同様に住民に残虐な対応をとり、(アフガニスタンが)再びテロリストの温床となった場合、(撤退を支持した米国人も)見方を変えるだろう」と指摘する(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版8月16日)。
このような中、バイデン大統領は16日夕方に会見を行い、撤退判断の正当性を強調した。アフガニスタン侵攻の目的は2001年同時多発テロの首謀者オサマ・ビンラディン容疑者の殺害と、同容疑者が率いたテロ組織アルカイダによるアフガニスタンの利用を防ぐことだったとし、その目的は既に10年前に達成されたとした。その上で、他国の内戦に関与することは米国の安全保障とは関係ないとし、いかなる批判を受けようとこの問題を次の大統領に引き継ぐことはしないと締めくくった。
(磯部真一)
(米国、アフガニスタン)
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