米大統領貿易促進権限(TPA)が失効、当面の再付与は見通せず

(米国)

ニューヨーク発

2021年07月02日

米国の大統領貿易促進権限(TPA)が7月1日、失効した。バイデン政権は新規の自由貿易協定(FTA)締結を当面見送る方針で、TPA再付与にも慎重な姿勢を示している。

円滑なFTA交渉や批准には、TPAが必須とされる。米国憲法上、通商権限は議会が管轄するが、議会が行政府(政権)にTPAを与える場合、政権が交渉・合意した通商協定について、議会は協定内容を修正せず、実施法案の賛否のみを審議する。米国がこれまで締結したFTAの大半は、TPA手続きにのっとるかたちで発効している(注)。

今回失効したTPA(2015年超党派議会貿易優先事項説明責任法)は、オバマ政権下の2015年6月に法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が成立した。オバマ大統領(当時)は、環太平洋パートナーシップ(いわゆるTPP12)などの締結のため、TPAを議会に求めた。TPPは2015年10月に大筋合意されたが、合意内容に対する議会からの反発や、2016年大統領選での両候補によるTPP反対を受けて、議会審議には至らなかった。結局、TPAの議会手続きに則したFTAは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)のみとなった(関連ブラック ジャック ディーラー)。

TPA失効を迎え、米国商工会議所は6月30日に「経済成長や雇用を促進する通商課題を進める上でTPAは不可欠」と述べ、議会にTPAを再付与する法案の検討を促す声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。一方、バイデン政権は発足当初から、新型コロナウイルス対応やインフラ投資などを優先する方針を維持している。米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表も、5月の下院公聴会で、TPAの更新予定についてケビン・ブレイディ下院議員(共和党、テキサス州)から問われた際、「TPA法案に対する(USMCAのような)超党派の強力な支持が必要」と述べつつ、具体的な見通しへの明言を避けた。ブレイディ議員は4月に戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、新規FTAに向けて、議会によるTPA更新に向けた議論の開始を呼び掛けている。

トランプ前大統領の上級政策顧問を務め、USTRでの経験もあるケリーアン・ショー弁護士は「今年か来年のうちにTPAが検討されるとの楽観論は誰も持っていない」との見方を示す(政治専門誌「ポリティコ」6月28日)。米国は2022年11月に中間選挙を控える。選挙前には、TPAなど難しい政治案件は見送られる傾向がある。また、検討開始後も、貿易環境の変化に応じた交渉目的(議会が協定に求める分野ごとの規律水準)の追加・変更や、トランプ政権時に指摘された議会手続き軽視への対応(2019年12月20日記事参照)など、TPA法案の策定には一定の時間を要することが予想される。

(注)議会調査局によると、米ヨルダンFTA(2001年12月発効)については、米国内でその内容に争点がなく、貿易への影響も軽微だったため、TPA手続きが適用されていない。

(藪恭兵)

(米国)

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