メキシコ政府、USMCAに基づくトリドネックスの労働権侵害の事実確認要請を正式に受諾
(メキシコ、米国)
メキシコ発
2021年06月21日
メキシコ経済省は6月19日付でプレスリリースを出し、北東部タマウリパス州マタモロス市にある自動車部品メーカー、トリドネックス(Tridonex)の工場における労働権侵害に関する米国政府からの6月9日付事実確認要請(米USTR、ブラック ジャック)を正式に受諾する旨を、6月18日付で米国通商代表部(USTR)に通知したと発表した。米国政府の要請は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRLM)」を活用したもので、USMCAの紛争解決の章(第31章)の付属書31-Aの第31-A.4条2項に基づき、要請された国は10日以内に事実確認を行うかどうか回答する義務を負う。RRLMを活用した米国政府の要請は、グアナファト州シラオ市にあるゼネラルモーターズ(GM)の工場での労働権侵害の疑いに次ぐ2件目となるが、GMの件については、既に米国からの要請前にメキシコ政府が問題とされた労働協約の適法化プロセスのやり直しを命じていたこともあり()、現時点でRRLMに基づく正式な事実確認プロセスの開始をUSTRに通知したという発表はない。従って、今回がメキシコ政府による、初のRRLMに基づく正式な事実確認プロセスへの着手となる。
USMCAの同付属書第31-A.4条4項に基づき、メキシコ政府は米国政府の要請から45日以内(7月24日まで)に確認結果について報告する必要があり、労働権侵害が存在すると結論付け、権利侵害の是正を行う場合、その内容について米国政府と合意する必要がある。権利侵害はなかったという結論になり、米国政府がそれに納得しない場合、または権利侵害の是正内容について両国が合意しない場合は、同付属書第31-A.5条に基づくパネル設置要請がされることになり、パネルの裁定を通じた事業所への制裁賦課(特恵関税の停止、あるいは罰則の賦課)に発展する可能性がある。トリドネックスの労働権侵害疑惑の背景には、メキシコの新興独立系労組の全国工業サービス労働者独立組合20/32運動(SNITIS)が、雇用主との間で新たな労働協約を締結できていないことがあるが(2021年5月12日記事参照)、SNITISが過去に行った過激な活動については問題視する声も強く、メキシコ政府が事実確認プロセスを経てどのような結論を出すのかが注目される。
(中畑貴雄)
(メキシコ、米国)
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