低炭素の製鋼への移行に向けた欧州官民パートナーシップが発足
(EU)
ブリュッセル発
2021年06月25日
欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は6月23日、EUROFERや欧州の主要鉄鋼メーカーなどが参加する欧州鉄鋼技術プラットフォーム(ESTEP)と欧州委員会が了解覚書(MOU)を交わし、「クリーン鉄鋼パートナーシップ(Clean Steel Partnership:CSP)」の発足を発表した。これは、欧州委が6月14日に立ち上げを発表した官民パートナーシップ()の1つで、低炭素の製鋼への移行につなげる。
CSPは、鉄鋼部門からの二酸化炭素(CO2)排出量の削減を可能にする画期的な技術の試験や実証を行い、技術開発の段階を示す指標である技術成熟度(Technology readiness levels:TRL、注)において、最高で9段階中、8段階目(TRL8、実用化に向けた最終実証段階)を達成することを目的とする。2027年までに少なくとも2件の実証事業が行われる予定で、1990年比でCO2排出量を50%削減し、CSPが資金を拠出する少なくとも12の分野において、2030年までにTRL8を達成することを目指す。
CSPの最終目標は、「欧州グリーン・ディール」に沿って、鉄鋼部門において2050年までにCO2排出量を80~95%削減、最終的に炭素中立を達成し、また、世界の鉄鋼部門の炭素中立化へ向けて、EUの主導力を高めることだ。EUの研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」と「石炭鉄鋼研究基金(RFCS)」からの資金提供を受けるなど、EUからCSPへの資金提供は7億ユーロに上り、また民間からも最大で10億ユーロの資金が拠出される予定だ。
低炭素の鉄鋼製品市場の創出などを訴える
CSPの発足に際して、EUROFERのアクセル・エッゲルト事務局長は「CSPは欧州の気候中立目標の達成に寄与する」とし、欧州鉄鋼部門が掲げる「2030年までに製鉄によって排出されるCO2の量を30%削減し、2050年までに炭素中立に向けた変革を達成する」と述べた。また、CSPの成功のためには、今後10年以内のできるだけ早期に、低炭素の鉄鋼製品への需要を喚起し、市場を創出しなければならないと指摘した。その上で、EU域内およびグローバル市場において、新興国などのより炭素集約的な製品との競合が予想されるため、欧州委が7月に発表予定の気候変動関連政策パッケージ「Fit for 55」において、カーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)防止と、企業が行う革新的な低炭素製鋼関連技術への投資、発展、そして実用化に対して、効果的に対応した法的枠組みが必要だと訴えた。
(注)技術成熟度(TRL)は、9段階の場合、TRL1 が最も基礎的な研究、TRL9が最も実装・商業化に近い段階を示す。
(滝澤祥子)
(EU)
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