欧州委、製薬戦略で保健衛生政策の強化を模索

(EU)

ブリュッセル発

2020年11月27日

欧州委員会は11月25日、政策文書「欧州製薬戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表した。現欧州委が取り組む「保健衛生同盟」(欧州委、「新型コロナ危機」を受け、ブラック)強化の一環で、医薬品の研究開発から、認可、製造、販売まで幅広い領域を網羅した内容になっている。非常時における必要不可欠な医薬品の確保のように「新型コロナウイルス危機」の教訓を踏まえた内容だけでなく、治療薬のない難病への対応など、従前からの課題も含まれている。

「戦略的自律性」を掲げるも、具体策はこれから

欧州委は戦略の主要な目的として、患者の医薬品へのアクセスを確保しつつ、欧州製薬業界の競争力とイノベーション力を維持することを挙げている。医薬品アクセスについて、新薬の価格が高騰し、加盟国の保健衛生制度および個人の家計を圧迫する傾向にあると指摘。しかし、医薬品の価格および保険の適用は基本的に加盟国の権限範囲にあり、EUの権限は加盟国間の協調を促すことなどに限られている。その中でも、EUレベルで可能な政策として、競争の促進を挙げた。実際、欧州委は11月26日にイスラエルのテバと米国セファロンの製薬2社に対し、睡眠障害治療に用いるジェネリック薬の市販を意図的に遅らせ、患者の安価な医薬品へのアクセスを妨げたとして、約6,000万ユーロの課徴金を科すと発表した。同発表で、欧州委のマルグレーテ・ベスタエアー上級副委員長(欧州デジタル化対応総括・競争政策担当)は「前日発表した製薬戦略の趣旨に沿う決定だ」と述べている。

製薬業界の競争力を維持するための政策として、2021年中に域内の保健関連データを活用した研究開発を促すため「欧州保健データ・スペース」設立に関する法令を提案するとした。また、イノベーションを促進する政策として、医薬品に関する法制を2022年中に、ゲノム医療や各種データ解析など先端技術に対応する内容へと見直すとしている。

危機への対応では、「戦略的自律性(strategic autonomy)」が戦略上のキーワードとなっている。戦略的自律性は、「EU新産業政策」()で提唱された概念で、医薬品の文脈では域内での生産力増強、生産拠点およびサプライチェーンの多様化、戦略的備蓄などを想定したものだ。ただし製薬戦略では、こうした構想は複雑でさらなる検討を必要とする課題だとし、当面は欧州委が製薬業界をはじめ、関係するさまざまなセクターとの「体系だった対話(structured dialogue)」を重ねていくと述べるにとどまっている。

(安田啓)

(EU)

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