経済諮問委員会が2020年経済成長率を上方修正、長期的課題解決を提言

(ドイツ)

ベルリン発

2020年11月19日

ドイツ政府の経済諮問委員会(通称「5賢人委員会」)は、11月11日に年次報告書を発表した。年次報告書では、ドイツの2020年の経済成長率は前年比マイナス5.1%と、2009年の世界金融危機時と同水準になるとの予測を示した。夏季の力強い経済回復傾向を受け、前回6月の予測のマイナス6.5%から上方修正した。また2021年の経済成長率は3.7%と緩やかなペースで回復すると見込み、前回予測の4.9%を下方修正するとともに、2022年初より前に、「新型コロナ危機」前の水準に戻る可能性は低いとした。これらは、新型コロナウイルス感染症拡大を受けた2020年11月の部分的ロックダウンによる経済活動の制限も考慮に入れた予測値となっている。

「新型コロナ危機」に対する経済財政政策の迅速かつ幅広い対応に一定の評価を与えるとともに、事業者の損金繰り戻し範囲のさらなる拡大や経営悪化に対するつなぎ資金補助など状況をきめ細かく見極めた政策が有効としている。

さらに、新型コロナウイルス対策としての経済支援策は、ドイツ経済の長期的な課題の解決を忘れてはならないとして、生産性の低下、技術革新やデジタル化による経済構造や労働市場の変化、二酸化炭素(CO2)排出削減目標などの解決に向けた好機とすべき、と提言する。主な提言は以下のとおり。

  • 人材のスキルの転換:雇用維持対策として導入している現在の短時間労働の期間を、従業員が技術の変化に対応するスキルを獲得するための教育訓練に充てる。
  • CO2排出削減目標達成のための産業構造改革:化石燃料産業への間接的な支援や課税などによって生じるゆがみを排除すべき。再生可能エネルギー法(EEG)に基づく賦課金の廃止や電気税の引き下げなど、エネルギー価格を改革する。炭素排出権価格の調整機能が強化され、セクターカップリング(注)のインセンティブ向上につながる。
  • デジタル化の推進:医療、教育、行政分野におけるデジタル化早期推進。デジタル環境を整備し、新たなビジネスモデルを創出するため、デジタルインフラへの投資拡大と事務手続きを削減・廃止する。

欧州レベルでは、EU復興基金を通じて効果的な投資や加盟国の構造改革を進め、危機への抵抗力や競争力を高めることが可能、と指摘。その上で、今後さらに危機的状況が発生した場合にEUや加盟国が適切に対応できるよう、財政、金融の両面でより大きな措置導入の余地を残すことを求めた。

(注)再生可能エネルギーの余剰電力対策として、電力、熱、輸送のセクター間が連携し、エネルギーの需要と供給を最適化させる構想。

(中村容子)

(ドイツ)

ビジネス短信 14e6407424edbfec